雨の止んだ朝に

GM(Lain) 2012.09.26 [22:01]

 雨は大方あがったようだった。
 戸口なり窓辺なりに立って外を覗いてみれば、空が明るくなってきているのがわかることだろう。

 昨日の夕方から降り出した雨は夜半にかけて強くなり、一時は屋根と壁を叩く雨音で会話にも不自由するほどだった。

 冒険者たちは、夕刻には雨を凌げるこの宿に到着していたのだから、ある意味幸運であったかもしれない。

 秋口のこの時期とはいえ、山の中であれば朝晩は相応に冷え込む。
 濡れてしまえば風邪をひくこともあるかもしれない。
 そうならずとも、服やら装具やらが濡れれば乾かすのには一苦労であるし、鎧の手入れも面倒なものだ。

※ ※ ※

 ここはクライバー峠。オランとアノスの事実上の国境、グロザムルの山中だ。
 ソーミーとブラードを結ぶ雲の上の街道は、ここでグロザムルの主稜を越える。

 旅人や商人向けの宿は、峠をややオラン側――ブラード側に下った場所にあるここにしかない。
 あとは樵や狩人が寝泊りする小屋がいくつか。
 この近辺にある人家はそれだけだ。
 何軒かある宿屋は、どこもそれなりに賑わっているようだった。

 冒険者たちがここにいる理由は、人それぞれだろう。

 護衛や遺跡探索、でなければ山賊や妖魔退治の帰り道。そんなところだ。
 誰にも共通するのは、さして美味い仕事ではなかった、ということだろうか。
 帰りの路銀と道中の食事でどうにかこうにか足が出ない程度の仕事を終え、オランへの帰途、というわけだ。

 上がりかけの雨とあって、冒険者たちも商人たちも、先を急ごうという者はない。
 わざわざ雨の中へ出て行かずとも、もうあと一刻もすれば雨は上がるのだ。
 なにも好きこのんで濡れることはない、という空気で、皆のんびりと朝の時間を過ごしている。

※ ※ ※

 ばたん、と音を立てて扉が開いた。

 入ってきた人物に、冒険者たちは見覚えがあるかもしれない。
 丸顔でよく肥えたその男は、ブラードに滞在するオランの役人であるらしい。
 昨夜はここに同宿し、今朝は暗いうちから街道の様子を見て回っていた。

「いかがでしたか」

 外套を外し、遠慮がちに水を落とす彼に、乾いた布を差し出しながら宿の親父が訊ねた。

「ブラード側へは通れません。
 この下で崩れておりますな」

 返答に、宿の食堂がざわついた。

「軽装の旅人なら越えられるやもしれませんが、それでもひどく危険でしょう。
 まあ、馬だの馬車だのは無理ですなあ。通りようがありません。
 随分と手ひどく崩れておりましたゆえ、通れるようにするだけでも幾日かかるか。
 1週間や10日は――」

 ああ、と思いついたように顔を上げ、

「そのようなわけですから、これから峠を越えてゆかれる方がおられましたら、行き会う方に本街道は通れぬと伝えてはいただけませんか」

 幾人かが頷く。
 この先に真っ当な商人が通れる道はない。
 オランへ向かうのであれば、ここに留まって街道が通れるようになるのを待つか、でなければソーミーまで戻って側道を通るか。
 いずれにしても相当の遅延は避けられそうにない。
 他の宿へも報せてきます、と下働きの若い男が外へ出て行った。

 商人たちも口々に今後どうする、というようなことを話し合っている。
 ある者は宿への逗留を決め、ある者はソーミーへ向かうことに決め、だが大多数はどちらとも決めかねている様子だ。

 騒ぎをよそに役人はなにかを羊皮紙の小片に書き付け、これを、と宿の親父に手渡した。

 さらにしばらく考え、随分と騒がしくなった食堂を見渡し、冒険者たちが集まるテーブルで視線を止める。

「冒険者の方々、でしょうかな。
 商人ともただの旅人とも見受けられませんが――」

 近づいてきて、人の好さそうな笑顔でそう言う。

「ああ、わたくし、テオバルトと申します。
 街道の普請を仰せ付かる者でして。
 少々お力をお借りしたいことがあるのですよ」

※ ※ ※

 テオバルト曰く、力を借りたいこと、というのはおおよそ次のような話であった。

 この先、オラン側に2刻ほど降りたところで土砂崩れが起き、街道が塞がっている。
 道が通れないとなれば大事であるので、早急に復旧作業にかかりたい。

「あなた方に人足の真似事をしていただこうというわけではありません」

 ただ、大きく崩れているゆえに、どこからが危険で、どこまでが安全か、が一見して解らないのだという。
 まだ崩れそうな部分は先に土砂を落としてしまう必要があるし、安全と見て作業を始めたら崩れたというのでは目も当てられない。

「ただまあ、そのあたりの見極めをのんびりとやっていてはそれこそ何日かかるか解りませんで」

 今のうちにできることは今のうちにやってしまいたいのです、とテオバルトは言った。
 わたしがやればよいというのはまあ、その通りなのですが、この身体ではねえ、と続ける。
 視線を落とした先に、見事に突き出た腹があった。

「そのようなわけですので、いくつかお手伝いをいただきたいと――ああ無論、報酬は用意しておりますよ」

 人数としては2人から4人程度、報酬はしめて2000ガメル。
 作業内容はみっつ。
 現場の絵図を作成すること、危険箇所を示す杭を現場とその上部に打ち込むこと、現場の上を人足が迂回できるようにロープを張り渡すこと。

「作業に必要なものと食糧の類はこちらからお渡しします」

 いかがですか、ひとつご協力願えませんか。

 テオバルトはそう言って、話を締め括った――締め括ろうとした。

※ ※ ※

「あ、もうひとついい話あるんだけど、こっちに乗らない?」

 いささか軽い口調で割り込んできた者がある。
 赤毛に鳶色の瞳の若い女だ。

「そんな露骨に厭そうな顔しないでよおじさん、儲けになりそうな人数ったらこっちも3人か4人だと思うからさ」

 話に水を差された格好のテオバルトに軽口を叩く。
 だからそっちはそっち、こっちはこっちでいいじゃない7人もいるんだから。

 キャロラインと名乗ったその若い女――旅商人であるそうだ――の語るところによれば、いい話、というのは概略以下のようなものだ。

 曰く、本街道を通らず、この近辺を迂回する道はある。
 馬車は無理だが荷物を積んだ荷馬やラバなら越えられなくはないだろう。
 先を急ぐ荷をこの場の商人から引き受けてブラードなりオランなりへ運ぶことができれば――。

「崩れたのがええと、どのあたりだって?」

 峠近辺の絵図をテーブルに広げ、キャロラインが問う。

landslide_00.png
 このあたりだ、とテオバルトが指さした。

「要はそこ通らなきゃいいわけよね。
 だったらあるよ、道。こっちとこっち」

 言いながら彼女は絵図の上を指でなぞった。

「ま、普段人の通らない道だからそりゃあ危ないだろうけどさ」

 だから金になるし、そういうときのために一緒に仕事しようっていうわけでさ、と彼女は続ける。

「道中の雑費はこっち持ち、儲けは折半てとこで、どう?」

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■GMから

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>みなさま

 みなさまよろしくおねがいしまーす!

 オランから離れた場所での依頼ですが、この場にいる理由は適当にでっち上げてやってください。マルナゲ!

 さて、さっそくルート(というか仕事)分けのお時間でございます。

 ・土砂崩れで埋まった街道の復旧作業の下準備(報酬総額2000ガメル)
 ・街道を迂回する商人の護衛(報酬総額儲けの1/2)

 のふたつですね。
 あ、「儲けは折半」は「冒険者と依頼人を含めた全員で等分」ではなく、儲けのうち半額を依頼人が取り、残りの半額を冒険者で分配」の意です。念のため。

 どちらの依頼も3人から4人程度の冒険者を求めています。

 メタ的に申し上げると、

 ・危険度は前者<後者
 ・期待される報酬は前者<後者
 ・報酬に関するリスクは前者<後者
 ・人数の振り分けは自由
 ・ただし、単独での依頼受領は不可

 というあたりです。

 振り分けについてはPL相談所などをご活用いただき、合意のもとに決めるのがよろしいかと存じます。
 振り分けの確定期限は29日一杯とし、その時点で確定した宣言がない場合はそれまでの希望状況等をもとにGMの一存で確定させることとします。

 よろしくご検討くださいませ!

 なお、出てきた地図の×印が崩れた箇所、峠を抜ける道は本街道(実線)のほか、2本の山道(破線)です。