転送
GM(Lain) 2011.12.08 [22:20]
オランから蛇の街道を北に2日。側道へ入り、さらに半日。
エストン山脈の南のはずれ、険しい山の中腹にその遺跡はある。
遺跡の前に建てられた小屋の外、木製の椅子に腰掛けて、魔術師風の若者が暇そうに魔術書のページをめくっていた。
君たちに気付くと開いていたページに栞を挟んで立ち上がる。
名を聞けば、彼はコンラートと名乗るだろう。
「冒険者の方ですか?遺跡へ?
ああはいはい、じゃ書類見せてください」
「――はい、確認しました。
中へどうぞ」
遺跡の地上部はありふれた小さなものだ。
聞けば、どうやら古代王国期の魔術師の住処だったようだ、と教えてくれる。
「ここのね、地下なんですよ。
地上はとっくに調べつくしてて、研究者の現地調査がたまにあるくらいだったんですが。
しばらく前に地震で崩れて、それで地下があることが解りましてね」
石組みの頑丈そうな床が割れ、地下にぽっかりと空洞が覗いている。
降りやすいようにという配慮か、梯子が掛けられている。
降りた先はひんやりとした石造りの遺跡だ。
壁も床も天井も、磨かれた黒い御影石。壁の天井近く、ところどころに設置された魔術灯が無機質な白い光を放っている。
通路の突き当たり、金属製の扉の前で立ち止まり、扉の脇の金属板に指で魔法文字を描いてゆく。
――と、金属板が光り、重そうな扉が音もなく開いた。
開いた扉の先、そこは円形の広間。
床に魔法陣が描かれ、ぼんやりと光を発している。
脇には床と同じ材質の台座、その上に石盤。魔法装置のようだ。
魔術師であればそれが転送の魔法陣であると解るだろう。それが『生きて』いることも。
「この魔法陣が入口です。
ここから転送によって遺跡へ入ることになりますが、魔晶石はお持ちですね?」
「――結構です。
どうやら転送先がそのたびごとに異なるようで、どこへ飛ぶかは飛んでみなければわかりません。
飛ぶ先も魔法陣が生きていなければならないので、飛んだ途端に石の中、ということはないようです。ご安心を」
「帰るとき、ですか?
あちら側からは魔晶石を使わずに戻ってこられます。少なくとも今まで戻ってきた方は皆そう言っていました」
「それと、遺跡自体に何らかの魔法的な防御結界が施されているようです。
転送の際に結界を中和する魔力が働くため、ある程度の時間は問題が無いようですが、それを過ぎると強制的に遺跡から弾き出されることがわかっています。
時間はまちまちですね。おおよそ半日から1日程度、なのですが、詳しいことはなんとも」
「さて、準備はよろしいですか?」
君たちの返事を確認して、コンラートは魔法装置の前に立った。
受け取った魔晶石を魔法装置に嵌め込み、指を石盤に滑らせて魔法装置を起動させる。
魔法陣がその輝きを急速に増した。
魔法文字が床から浮き上がり、回転し、組み換えられ、空中に新たな魔法陣を形成する。
落下とも浮遊ともつかない感覚。
ふっと周囲の光景が消え――