夜は明け、朝は来る

マルドル(LINTS) 2011.11.03 [10:59]

戦いの夜は明け。

私達の仕事は、ひとまず終わった。
仲間達は誰も死なず、村人達からも犠牲は出なかった。
もっとも(後で聞いたが)、村人達がパニックを起こしかけたという話には肝が冷えた。
一歩間違えれば、あるいは妖魔王の撤退があと一歩遅ければ。
村は内部から崩壊していたかもしれない。
本当に、紙一重の勝利だった。


その後は壊れた南門の修理と平行して、我々の警戒の日々が続いた。
妖魔たちが再び姿を現すかもしれない――

緊張の糸を、ようやく緩めることができたのは三日後。
子爵殿が遣わした騎士の一団が、村へ到着してのこと。

騎士団長へことの仔細を報告し、村の警護を引き継ぐ段になり。
私達もようやくほっと息をつけたのだった。




「まるで"ロプト"のようだった」

皆と山狩りへ赴いた際、騎士団長エリクセン殿へ
ふと、そんなふうに話す。
"ロプト"とは何かと問われれば、

「遠い昔、祖母から聞いたおとぎ話に登場した悪魔の名でな。
 妖魔を率い、知恵と武力で人々を恐怖に陥れたというのだ。
 最後は、勇者との一騎打ちで死に果てたと謳われたが...
 その印象に、あの妖魔王は似ていてな」

とんだ昔語りを聞かせてしまった、すまぬと苦笑する。
しかし、正直心から笑えぬのだ。

「確かに、妖魔王の知力は人間並みとは言われるが。
 あの統率力、あの判断力――あの妖魔王は別格だ。
 正直、どこぞの人間かダークエルフが
 呪文で姿を変えただけと言われるほうがしっくりくる。
 引き際の鮮やかさなぞ、並の人間では務まるまいよ」

あの時、力づくで村を壊滅させることもできたのだからな――。


もぬけの殻となった住処を確認し、
村へ戻ったエリクセン殿は、こう言った。


 >「同じ規模に戻るには、少なくとも数ヶ月を要するだろう」

 >「別の同族集団を吸収できれば、の話だ。
  しばらくはそれも難しかろう」

...と。

あの規模に戻るには、少なくとも数ヶ月。
それが長いのか短いのかは、私には分からぬ。
しかし、打てぬ手は無いのも事実だ。

「エリクセン殿。私はオランへ戻ったら子爵殿に提言しようと思う。
 あの妖魔王への警戒を怠らぬようにと。
 出来れば、周辺の領主殿とも連携し、ふれを出して、
 何かあればすぐに対処できるよう手段を講じて欲しいと...な」

自分の不始末を押し付けるようでいささか歯がゆいが、
後はあの聡明な子爵殿に任せるほうが賢明だとも思える。


あの夜、私は妖魔王をしとめ損ねた。
大きな傷を負わせはしたものの、王の背は闇に消えた。

野放しにたままでは危険だと分かっていながら、
取り逃がしてしまったのだ。

これも自分の未熟からきたもの。
悔やんだところで時は戻らない。

それよりも。

南門のオーガーは、アルフレドとガラフ達によって倒された。
ゴブリンの足を止めたリュエンとクーフェリアス、
ホブゴブリンを一騎打ちの末退けたラッシュ、
魔法で敵を眠らせ続けてくれたチルグラ、
弓や槍で、妖魔たちを撃退した衛視や狩人達――。

誰か一人欠けても、この戦いを勝ち抜くことも
パニックを起こしかけた村人を鎮めることも叶わなかっただろう。

「誰も死なずにいてくれて、本当に良かった。
 私の力が、誰かの死を食い止める小さな盾になれたのなら。
 それが、私にとっての最大の報酬なのだろう」

そう言って、やっと心から笑った。


PL>
ほぼフレーバー日記ですだよ。
妖魔王に『ロプト』って名前をつけたくて
マルドルが子供の頃に聞いたお伽話って設定をでっちあげましたw
ゴブリンごときに大それた名前だけど、
そんだけインパクトがあったってことで!
勝手に読んでるだけです、スルー推奨でよろしくーw