500年の香り。

ガラフ(テッピン) 2011.06.14 [16:30]

外でひとしきり物思いに耽った後小屋に戻ると、今正に黒魔犬の実食をしている最中だった。

 

>「マズッ」


メガーヌが予想通りの感想を口にする。さもありなん。


>「魔神とかいう連中の仲間なんだろう?

> ロクなもんじゃあないね」


ロクなもんじゃないのを承知で口にしたのは何処の何方でしょうな、とは思ったが口には

出さないでおく。対岸の火事がこちらに飛び火するのは遠慮願いたい。

 

意外なのはトロンで、カーツェナルから香辛料を借りてまでして何とかおいしく食べようと

努力している。これも学究の徒としての好奇心故だろうか。

―――自分は真似しようとは思わないが。

 

>「ま、いいさ。

> あんたたち、呑めないのは知ってるけどちょいと付き合いな。

> 舐めるだけでいいんだよ。

> こういうのは付き合いだ」


黒魔犬の味を口から一刻も早く追い払いたいのか、メガーヌが遺跡で獲得した

高級酒―――名はグレン・グラスと言ったか―――に手を掛け、惜しげも無く開封した。

周囲に得も言われぬ芳醇な香りが漂い始める。


>「これが500年の香りだ。

> あんたたちも学者のはしくれなら、こういうのは覚えてなきゃあいけないだろう?

> 味も知っておくべきさ」

 

木工職人としての腕を活かし、いつの間にか作っていた手彫りの盃に次々と酒を注いでいく。

二つには、並々と。三つには、ほんの一滴を。

 

>「今回の成果を祝って乾杯といこうじゃあないか。

> 次に生きて会えるとは限らないんだ、こういうのは大事にしないとねえ、ははは!」

 

こつん、と盃をぶつけ、一気に咽喉へ流し込む。

今までに呑んだ事のない濃厚かつ豊かな味が広がっていく。

これは、旨い。 

 

>「いいね、これが生きてるってことだ」

 

ばつん、背中を叩かれ、少しむせ返る。

 

「そうですな。生きていなければ、この味は知る事は出来なかった。

 生きていればこそ、酒を味わう事が出来る。有難い事です...」

 

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>「なにしろ時間がなくてねえ」


オランに到着する前の晩。メガーヌからそれぞれに、木彫りのブローチを渡された。

どうやら、黒魔犬の肉球部分を模したものらしい。

 

>「生き残った記念だよ。

> あんたたちとまた仕事出来ることを願う。

> 次に仕事する時まで、持ってておくれ。

> しかし、あんたたちが下戸じゃあなければもっと良かったのにさ!

> ははは!」


「これは面白い主題で彫られましたな...姉の細やかさがよく出ておる。

 お守りとして、大切に持っていましょう、有難く頂戴します」

 

一風変わったブローチではあるが、普段は韜晦されていて見えない、

メガーヌの持つ繊細さや女性らしさがよく出た、実に愛らしい仕上がりとなっている。

 

「ワシもまた姉と一緒に仕事をしたいですからな。次は坊や扱いされないよう、

 少しは背中を安心して預けて貰えるよう精進するつもりです」

 

照れ隠しとばかりにメガーヌはゴブレットに注いだ蒸留酒を掲げて、ぐいっと煽った。

目が、付き合え、と言っている。

 

『付き合いましょう、どこまでも。他ならぬ姐さんの頼みですからね...』

 

他の誰にも分からないよう、ドワーフ語で答え、返事とばかりに酒を飲み干す。

夜は賑やかに、柔らかく更けていく...

 

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PLより:〆の投稿のつもりです。皆さんお疲れ様でした!

     そしてたいまんさん、ブローチ有難うございます!確かに受領致しました。

     きっとガラフは大切にすると思いますよ♪