その直前

GM(Lain) 2011.10.27 [22:45]

 森の木の梢がざわりと動いた。
 姿こそ見えないが、音はこちらへ急速に近づいてきている。

 風ではない――さほど強い風は吹いていない。

 だとすれば、それが何であるかは自ずと明らかだ。

「デニス!呼子吹け!南から敵襲!」

 アルフレドは即座に命じた。

 ――あの神官殿の読み通り、か。

 だが、感心している余裕などない。
 敵襲とあれば迎撃せねばならない。

 手勢は自分を勘定に入れて8人。
 うち2人は守るべき村人。
 5人の部下には実戦の経験がない。

 2人の村人、狩人には柵に取り付かれるまで敵に矢を射掛けさせる。
 取り付かれたら北へ撤退。

 守るべき村人に無理をさせて死なせるなど恥以外の何ものでもない。
 我々の存在意義を自ら放擲するようなものだ。

 迎撃には何人の部下を残すべきか。

 万が一の突破に備えて村人を逃がさねばならない。
 誘導に2人。

 冒険者たちにも急を報せる必要がある。
 伝令に1人。

 迎撃には2人しか残せない。

 そこまで考えたところで、敵の姿が露になった。

 ――ゴブリン4、そしてあれは・・・・・・オーガーか!

 北からの援軍がなければ、迎撃の要員は自分を含めてまず助かるまい。
 であれば。

 最も歳が若いエルメルとフランツを村人の誘導に。

 次に若いデニスを伝令に。

 ――年嵩の2人には、とんだ貧乏籤だが。

「デニス、お前は冒険者殿にこちらの状況を伝えよ!
 オーガー1、ゴブリン4、南門にて防戦中!
 伝えたならばあとは冒険者殿の指示に従え!」

「エルメル、フランツ、村人を北へ逃がせ!
 橋を渡らせてそこを防御線にしろ。
 村人が全員渡ったならば橋を落としてよい!急げ!」

「ボリス、クラエス、槍構え!
 奴らが柵に取り付いたならば遠慮なく突け!」

「イアン殿、クルト殿、妖魔を狙え!
 巨人は私が引き受ける!」

 今はこれしかできない。今となっては。
 可能な限り時間を稼ぎ、村人を逃がす。

 任務に合致した行動、この場では的確な命令。
 こうするより他にやりようはない――およそ誰であっても、己の決断を妥当と支持する筈だ。
 アルフレドにはその自信があった。

 だが本当にそうか、と問う己がいる。

 こうなる前に。
 まだ出来たことがあったのではないか。

 部下と自分に死を強いるがごとき命令を下さざるを得ない状況に陥る前に。
 もっと備えることができたのではないか。

 妖魔らしからぬ統制のとれた集団だと、頭では理解していたというのに。

 ――やめろ。

 いまは悔やむときではない。
 そう自分に言い聞かせて、強引に思考を断ち切る。

 柵の向こうで二度、悲鳴が聞こえた。

 足と肩に矢を受けて倒れたゴブリン。
 腹に矢を突き立てられて動かないゴブリン。

 ただ2人、二度だけの射撃は、期待をはるかに上回る効果を上げていた。

 3本目の矢を番えようとするイアンを手で制し、下がれと叫ぶ。
 一瞬迷ったイアンは、その言葉に従った。

 同時に、重く鈍い打撃音。

 オーガーの持つ棍棒が、門扉へ激しく打ち付けられていた。

 まるで破城槌のようじゃないか。
 他人事のようにそんなことを考える。

 振り返ると、その音に恐怖を覚えたのだろう、イアンとクルトの足が速まっていた。

 ――よし。

 緊張して顔を強張らせたボリスとクラエスの肩を強く叩く。

「ボリスは右、クラエスは左だ。
 狩人の矢にできてお前たちの槍にできないことはあるまい」

 強張った顔のまま、2人が頷く。

「行けッ!」

 自らも剣を抜き放ち、アルフレドは叫ぶ。

 2人の衛兵の喚声と妖魔どもの怒りの唸りが、それに重なった。

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■GMから

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 アルフレド視点の南戦線描写、6Rから9R分。
 だいたいこんなかんじで迎撃態勢を取りました。
 まあぶっちゃけフレーバーです。

 順調にフラグ増設中ですお!