月沈む

GM(Lain) 2011.10.05 [16:09]

> 「ありがとう、イアン。

「は、え」

 マルドルの言葉に、イアンはどぎまぎと視線を彷徨わせる。

>  わざわざ寄り道までしてくれて、調べてくれて。
>  あんたのお陰でいろいろ分かったよ、助かった」

「あー、いえっ、」

 お役に立てて嬉しいです。
 いささか明瞭さを欠く発音で、彼はそう答えた。

※ ※ ※

> 「今晩については、引き続きマルドルとワシは寝ずの番に就こうと思う。
>  チルグラ夫人もご一緒して頂けますかな?
>  御三方は、今から寝て頂いた方が宜しいかな?」

 ガラフの提言に、アルフレドが答える。

「衛兵は交代で休息を取らせます。
 私自身は明日の午前中にでも休む予定です」

 警戒についても了承したようだ。

「衛兵のうち一人は南側を重点的に見張らせましょう」

※ ※ ※

 ガラフとラッシュ、それにマルドルが交わす議論を、アルフレドは耳のないような顔で聞いている。

 これまでの彼の言動を思い返せば、その理由も自ずと解ることだろう。
 冒険者たちの方針がどのようなものであれ、彼は衛兵とともに村を守るつもりでいるのだ。

 そうこうするうちに食事は終わり、各々がその持ち場に着くべく席を立つ。

 アルフレドは衛兵のうち、デニス、エルメル、フランツを先に休ませることにしたようだ。
 3人は早速、寝る仕度を始める。

 ボリスとクラエスが篝火の用意を始めたところへ、マルドルが声をかけた。

> 「火は、より多く焚こう。
>  夜の闇は、そうでなくとも人の心に不安を与える。
>  光は、敵に我々の警戒をアピールすると同時に、
>  不安に怯える村の女子供を幾らか安心させてくれよう」

「なるほど、道理です」

 大きく頷き、2人の衛兵に数を増やして防柵沿いに並べろ、と指示を出す。

> 「――そうだ、

「どうされました?」

 ふと思い立った顔のマルドルに、アルフレドは先を促す。

>  仮に牧草地や森の近くで、
>  夜、我々冒険者と妖魔が衝突する事態となって。
>  『明かり』の支援は可能だろうか?
>  松明を投げる、あるいは火矢を射掛ける等の行動は、できるだろうか。
>  もちろん、距離の問題もあるから無理にとはいわぬが――」

「松明を投げる程度なら、準備しておけばさほど難しくないでしょう。
 火種は篝火がありますから、防柵に沿っていくつか置いておけば問題ないはずです」

 ただ、と彼は言う。

「もともと松明は手に持って使うものです。
 地面に落としてどれだけ火が保つものか、そもそも明かりがそう遠くまで届くものなのか――」

 少々不安なところではあります、と彼は腕を組む。

「火矢。――火矢ですか」

 彼にとっては意外な提案だったのだろう。
 ううんと唸り、

「照明に使うものではないので、火矢だけではどうにもなりません。
 無論、松明を投げるよりははるかに遠くまで届きますが、燃えるものが周囲になければただの――」

 そこまで言いかけて、アルフレドは、あ、と声を上げた。

「干草、藁束、薪、そんなものを積み上げておけば、そこへ射込むことで明かりが作れます」

 動く的を狙うのでなければ、そして藁塚のような大きな的なら、暗かろうとも射込むのに支障はさしてない。

「藁塚はボリスとクラエスに用意させましょう。
 火矢は私が作って持っておきます」

 衛兵どもは射たことがないので、とアルフレドは言った。

「ただし、時間はそう長く持ちません。
 小半刻も持つかどうか」

 しかしそれでも炎が消えるまでの間、敵の動きが見えることに変わりはない。

 アルフレドは篝火の仕度を進める二人の衛兵を呼び戻し、概略を説明する。
 村長への話は私がしましょう、と彼は話を締めくくった。

※ ※ ※

 村長はあっさりとアルフレドの――つまりはマルドルの提案に同意したようだ。

 村の家々から少しずつ藁束と薪を集める。

「北西の門の正面、牧草地との境目にひとつ。
 その手前の耕地から柵沿いの牧草地にかけて4つ、というところでどうでしょうか」

 妖魔どもが攻め入りそうな気配を見せたら火矢を射込んで明かりとしましょう、とアルフレドが提案した。

「柵の近辺は問題ないでしょうが、牧草地との境へ向かうときは見張りをお願いします」

※ ※ ※

 藁塚の設置は半刻ほどで完了した。
 いまだ月があるからか、襲撃の様子はない。

 半月にも満たない月の頼りない明かりではあるが、牧草地の様子も辛うじて伺える。

 衛兵たちはアルフレドに命じられて篝火の設置に戻った。
 篝火が灯されるにつれ、村は明るくなってゆく。

 警戒の意思を示すには、たしかに十分な効果があるだろう。

 月が山陰に隠れようとする頃、火矢を作り終えたアルフレドがマルドルとガラフのところへ顔を出した。

「敵影未だ見えず、ですか」

 来ねば来ぬほうがよいのですがね、と彼は小さく笑う。
 息をついて振り返ったその視線の先に、クラエスが立哨しているのが見えた。

「彼らにはまだ実戦の――この類の命のやり取りの経験がありません」

 たとえ下級の妖魔や山賊が相手であれ、初めての実戦を切り抜けられずに死ぬ者はいる。
 彼我の規模、戦いの規模が大きくなれば特にそうだ。
 全員が生還できるのは、よほどの僥倖に恵まれたときだけ。

「若く体力に優れた者を集めた、と申しましたが」

 他にも条件があったのだ、と彼は言う。

「養う家族やそれに準ずるものがないこと。
 そして、嗣子でないこと」

 意味するところはお解りでしょう、と続けた。

「彼らにはあとのふたつの条件を伝えていません」

 理由ははっきりしている――士気に関わるからだ。

 埒もないことを申しました、とアルフレドが苦笑する。

「もし私が倒れたときは、」

 アルフレドの目が、ふたりを順に見つめた。

 感情をあらわにしない性質の彼の目に、懇請の色が浮かんでいる。

「どうか、彼らを頼みます」

 頭を下げ、ふたたび顔を上げたときには、もう元の表情だ。

 巡回に戻ります、と言い、敬礼をして、彼はふたりに背を向けた。

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■GMから

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 お待たせしました。ターン3の進行です

◆明かりについて

 篝火と松明についてはマルドルの提言どおり、防柵沿いに所要数を配置しました。

 必要な場所に必要なだけのものがある、とご理解ください。
 松明は射程について、投擲武器として扱います(片手、必要筋力10扱い)。

 火矢はそのままでは照明として使えないため、マルドルの提案をヒントにアルフレドが藁塚を5箇所に設置しています。
 具体的には、D3からD6までの4箇所とC4の計5箇所です。

 これらは火矢を射込めば約15分程度、周囲に十分な明かりを提供できるものとします。


◆睡眠について

 ガラフとチルグラの宣言を受ける形としました。

 ラッシュ、リュエン、クーフェリアス、チルグラはターン3に睡眠を取っています
 チルグラがライト2回で使った精神点は回復しました。

◆敵情

 ターン3は動きがありませんでした。

◆補足

 時間単位について。

 1刻:2時間

 半刻:1時間

 四半刻:30分

 小半刻:15分

 だいたいこんなかんじです。なんか「○時間」とか「○分」って現実を思い出させる表現な気がして普段避けているのです(無駄なこだわり)。