反論と承諾と

ラッシュ(夏季ごおり) 2011.10.04 [20:35]

〉「まず。ゴブリン達の数は現時点で判明している限り12匹。
 足跡からしてコボルド、ゴブリン、ホブゴブリンがおり、
 それらを『王』が統率しておる」

 

 ああ、なるほど。

どうやら情報を聞き逃していたらしい。

イアン・ヨーゼフ親子が襲撃された時の奴らの布陣は、後方にゴブリンロード、その護衛としてゴブリンが1匹。

 そして、ホブ・ゴブリン、ゴブリン、コボルドの計5匹で構成された2つの襲撃部隊があった。

 そして、少なくともこの中には、魔法が使える妖魔はいない――。

 

〉「そして群れは『王』によってしっかりと統制されておる。
〉 手勢を二手に分けて侵攻し、自らは護衛と共に安全圏から指示しておった。 
〉 大雑把ではあるが、戦術と戦略の心得があると思って間違いなかろう」

 

 ガラフの状況把握には異論はない。

俺はうなずいた。

 

〉「で、今迄の奴等の行動から推測するに、同じ場所に居を構えず、
〉 森の中を転々と移動している可能性が高い。
〉 我々増援の存在を知っている訳だし、一ヶ所に留まれば逆に
〉 襲撃される事位は理解しておろう」

 

「その点については、同意しかねるんだが・・・。

 俺たちは、奴らのねぐらを発見したわけじゃない。

 単に、村の西のほうに集団で退却する足跡を発見しただけだ。」

 

 正反対の方角から襲撃があったのならともかく、森の中を転々と移動している、と決めつける証拠はどこにもない。

俺たちがこの村に着いたことは把握しているのは間違いないが、拠点が見つけられたわけではないのだ。

ねぐらを変更しているという推測には納得しかねた。

 

〉「それにワシ等は悲しい事に野伏がおらん。戦闘が見込まれる以上、
〉 村の方々に同行して頂くのにも限界はあろうし、そもそも村人を
〉 危険に晒すのはフリクセル子爵から受けた依頼に反する」

 

 それを言われると、ツライ。

足跡を追跡するのに、ハンターは必要不可欠だが、敵の拠点にたどり着いてしまえば、その時点で戦闘になりかけない。

拠点が分かった時点で、何らかの方策を立て敵を分断し、それぞれ各個撃破するというのが漠然とした作戦だったのだが・・・。

敵の拠点を見つけたとして、地の利が向こうにある状態で、数的に不利な状況で、対等以上に戦えるか? と言われれば、実際問題難しいと言わざるを得ない。

それでも・・・。

 

〉「であるからして、基本的にはアジトの急襲は考えない方がよいと思う。
〉 明日の昼にクルト氏と共に南方を調べたいとは思うがの。
〉 基本的に日中の近辺捜索は先方に圧力を掛ける目的で行うのがよいかな?
〉 罠を仕掛けていくのも勿論よいと思う」

 

「あんたの意見は分からないではないが・・・。」

 

 敵が襲撃してくるのを待つとなれば、確実に主導権をむこうに渡すということになる。

確実に狙われる場所が分かっているのであれば、そこに罠を仕掛ければいいが、現状ではどこに仕掛ければいいか見当もつかない。

 

〉「とにかく。騎士団が到着する迄の防衛を第一義にするならば、基本姿勢は
〉 守勢に回り死傷者を出さないようにする。妖魔は深追いせず、
〉 襲撃があった場合に迎撃する、でよいと思うが皆は如何お考えか?
〉 短期決戦を狙うなら、わざと呼び込む、という手もあるが、
〉 これについては慎重な検討が必要だがの...リュエン氏とラッシュ氏は
〉 どう思われる?」

 

「あんたが言った通り、奴らに戦術と戦略の心得があるならば、前回と同じように攻めてくるとはとても思えねぇ。

 そんな相手に、守りに徹するのは危険じゃねェか?」

 

 意見を求められたので、思っていることをそのまま口にした。

 そもそも軍が城や砦で守りに徹することができるのは、攻めてくる場所が分かっているからだ。

敵の戦術をあらかじめ限定できるからこそ対策がとれるのであり、そもそも敵の戦術を狭めるためにそこに陣を敷くのだ。

防御柵しかない村で、同じことをやろうとするほうが間違っている。

 

「あらかじめ罠を用意しておき、そこに誘導し敵を分断する。

 そうでもしないと、数で劣るこちらが不利になる。」

 

 そのくらいはここにいる全員が認識している思う。

 

「だからこそ、確実に敵を誘導するために、奴らの拠点を把握する必要があるんじゃないか?」

 

 家畜を厩舎に集め、そこに罠を張る――そんなことも考えたが、それこそ"村人を
危険に晒す"行為に他ならない。

ガラフの言うとおり、慎重にならざるを得ない。

 

〉「今晩については、引き続きマルドルとワシは寝ずの番に就こうと思う。
〉 チルグラ夫人もご一緒して頂けますかな?
〉 御三方は、今から寝て頂いた方が宜しいかな?」

 

「夜間の警備については了解した。

 今後のコトについては、明日の朝、改めて話し合わないか?」

 

 今夜、もし襲撃があれば、また違った状況になるかもしれない。

なんにしても、村人たちを安心させるためにも、そろそろ警備につかなくてはならない時間だった。