奇跡

GM(Lain) 2011.09.15 [23:57]

 村長の来着を待つ間、ガラフの聖印とクーフェリアスの盾に目を留めた村人が遠慮がちに声をかけてくる。

「あんた神官さんですか。
 ひどい怪我人がおるんですが、もしよかったら・・・・・・その、診て、やってくれませんか」

 応諾すれば、彼は一軒の家に案内するだろう。

「ここです」

 質素な(しかし例に漏れず頑丈そうな)つくりの家の戸口を覗き、中へ低く声をかけ、そして神官たちを招じ入れる。
 小さな暖炉の火の明かりで照らされた部屋には粗末なベッドがあり、壮年の男性が寝かされている。
 男性に意識はなく、浅く早い呼吸を苦しげに繰り返している。

 相当な重傷であることは遠目に見ても明らかだ。

 ベッドの傍に屈みこんで汗を拭く女性は、おそらく彼の妻なのだろう。
 案内の村人が神官を連れてきたと言うのを聞き、何かを諦めたような表情で場所を譲る。

 左腕に包帯を巻いた若い男性――これは彼ら夫婦の子であろうか――が、そっと女性を支えた。

 近づいて傷を検めれば、命に関わる重傷だと理解できることだろう。
 傷口は右肩の1箇所のみだが、鎖骨を断ち、おそらくは肺の近くにまで食い込んでいる。
 多量の血が流れ出てしまったためか顔色は青ざめ、生気がない。

 あと数刻遅ければ、このまま命を落としていた可能性も、けっして低くはないだろう。

 ガラフの祈りが正しく聞き届けられたならば、傷口は一瞬、淡く暖かい光に包まれる。

 彼の妻と息子、そして村人が、揃って目を瞠り、息をのみ。

 男性の呼吸は、それまでの浅く忙しないそれから、深くゆったりとした、眠るような調子に変わる。
 意識はいまだ戻らないが、生命の危機を脱したことは誰の目にも明らかだった。

 妻は安堵のためか泣き崩れた。
 くしゃくしゃになった顔でガラフの手を握り、嗚咽と訛りのためにひどく聞き取りにくい東方語で繰り返し礼の言葉を述べる。

 息子は放心したように椅子に座り、しばらく黙って天井を眺めていた。
 ややあってのろのろと母のもとへ歩み寄り、背を叩いて身体を支え、ガラフにこれも丁寧な礼を言う。

 呆然と成り行きを見守っていた案内の村人は、3人の様子を見て弾かれたように外へ飛び出していった。
 勢いよく開けた扉は閉め忘れたままだ。

 開け放たれた扉の向こうから、誰かを呼ばわる彼の大声が聞こえた。

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■GMから

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 なお、ガラフ(と同行したPC)以外はこの場にいない(この記事には返信できない)扱いです。

 せっかくなので奇跡の行使をねっとりと描写してみるチャレンジ。
 実際に奇跡を使える神官って貴重なんですよね。

 あ、ダイスは振っておいてくださいねー。
 万一1ゾロ振っても成功するまでやり直す前提の描写ですが、途中で諦める場合はその旨仰ってくださいw