その発端

GM(Lain) 2011.09.06 [00:05]

 夏も終わろうとするある日の昼下がり。

 その日、アンセルムの小さな宿に冒険者たちが集まっていたのには、特にこれといった理由があったわけではない。

 ちょっとした手紙や小物の配達。
 実入りのよくない(それこそ帰路の路銀でほぼなくなるような)護衛。
 行ってみたら既に荒らされていた遺跡の探索。

 そういった、冒険者の言うところの「外れ仕事」を終えてオランへ帰ろうというところだった、というのが共通点ではあった。

 アンセルムは蛇の街道の中ほどにある小さな都市だ。
 オランからは片道の旅程が半月ほどになるだろうか。

 小さな都市ではあってもここを通る商人は多く、近隣にはそれなりの数の村落もある。
 ゆえに、護衛や怪物退治、村を襲う妖魔の排除などなど、冒険者への依頼の種は少なくはない。

 だからこんな小さな街にも小さいとはいえ冒険者の宿はあり、街道を行き交う暇な冒険者は自然とその宿に吹き溜まるのだ。

※ ※ ※

 さて、そんなある日の昼下がり。

 戸口から入ってきた人物を一瞥した宿の主人はおや、という表情を見せた。

 折り目正しい物腰に、地味ながら仕立てのよい衣服。

 上流社会と些かなりとも関わった者であれば、貴族や裕福な商人の使用人のようだと解るだろう。
 彼は主人に羊皮紙を示し、低い声で二言三言と言葉を交わす。

「子爵が?」

 宿の主人は、そんな言葉を漏らした。

「はい、急な話ですが、是非に、と」

 主人が顔を上げ、冒険者たちに視線を移す。

「なあ、あんたたち。
 仕事の口、今は無いって話だったよな。
 領主様が人を寄越してくれ、と仰ってる。
 妖魔に襲われた村を救ってほしい、ってな依頼だ。
 条件は今すぐに動けること。
 払いはひとり500、働きによっては上乗せアリだそうだ。
 ひとつ話だけでも聞きにいっちゃ貰えないかね」

 そこまで話し終えてから、ああ、と思い出したように使者に告げた。

「彼らはこの近辺ではなく、オランの冒険者です。
 報酬に加えて、オランまでの路銀も払ってやっちゃあいただけませんか」

 500じゃ下手するとオランに着くまでにあらかたなくなっちまう。

「子爵はそれで構わないと仰るでしょう」

 使者はそう答えて、冒険者たちに頭を下げた。

「私からもお願いいたします」

※ ※ ※

 街の中心部、子爵の居館まではさほど遠くはない。
 そもそもがそう大きな街ではないのだ。

 使者に伴われて門を抜け、そのまま館の主人――子爵の待つ部屋へ通される。

 宿の主人には40を過ぎたばかりと聞いた子爵の痩せた身体からは、壮年の男性がもつある種の力強さを感じない。
 色白の細面に白いものの交じる金褐色の髪、柔和そうな藍色の瞳。
 麻のシャツを着た幅の狭い肩にゆったりとした上着を羽織り、時折乾いた咳をする。
 身体が弱いのか、病なのか、あるいはその両方であるのかもしれない。

 大きな円卓の向こう側、椅子に腰掛けていた子爵は来客の姿を見て立ち上がり、穏やかな声で名乗った。

「フリクセル=セレンソンです」

「どうぞ、かけてください」

 手振りと言葉で冒険者たちに椅子を勧め、全員の顔を改めて見回し、チルグラに視線を止めた。

「息災でおられましたか」

 柔らかい笑みが顔に広がる。

「何よりです。
 こんなときにまたお会いできるとは、私も心強い」

 冒険者たちを案内した使者が子爵に何事か耳打ちし、子爵は小声で何事か答えて頷いた。

 全員が椅子に腰を落ち着けてから、かれは思い出したように問う。

「暑くはありませんでしたか。
 よろしければなにか飲み物でも持ってこさせましょう」

 冒険者たちが注文を述べれば、控えていた使用人がそれを聞くことだろう。
 全員の注文を聞き、一礼して、使用人は部屋を出て行った。

※ ※ ※

「さて」

 フリクセルは切り出す。

「宿のご主人から、ごく大まかには聞いておられることと思いますが」

 言いながら、かれは一枚の地図を円卓の中央へ滑らせた。
 ハルストレーム、と記された村を指で示す。

 

hallstrem.png「ここが、その村です」

 街の傍を流れるエフライム川、その支流のほとり。
 エストン山脈の山中にある、おそらくそう大きな村ではあるまい。

「こちらから歩いていくのであれば1日半、強行すれば丸1日というところでしょう」

「今朝、この村の者がこの館へ駆け込みました。
 村が妖魔に襲われた、家畜が何頭か奪われ、怪我人も出ている、と」

 幸いにして、死者は出なかったという。

「しかし妖魔どもは一度村を襲い、成果を得ています。
 襲撃は繰り返されるでしょう。
 次は怪我人では済まないかもしれない」

「本来こういったことはわが騎士団の任なのですが」

 いささか残念そうな表情でかれは続ける。

「いま、騎士団はエストン山中の別の場所で動いております。
 一部を呼び戻して村の防衛の任に充てるにも、近在に派遣している騎士や兵士を招集して討伐隊を編成するにも、時間がかかる。
 そこであなた方に、しばらくの間、村の防衛をお願いしたいのです。
 期限は明日から数えて5日目まで。
 従士長と街の衛兵も幾人か同道します。協力して妖魔に当たってください。
 条件は提示したとおり――ああ、オランへの路銀の件も含めて、です。
 妖魔の種族はコボルド、ゴブリンと――それからより大柄な妖魔がいた、と報せを受けています。
 加えて、私の聞くところ、襲撃の規模は小さくなかったようです。
 おそらく、それらを率いる上位種がいると考えて間違いないでしょう。
 村の防衛の依頼を、お請けいただけますか?」

-------------------------------------------------------
■GMから

 この記事への返信は「110_導入部」カテゴリにチェックを入れて投稿してください。

 導入です。
 質問やリクエストなどは随時受け付けますのでがんがんどうぞ!

 PCたちがアンセルムにいた理由は、特にGMからは指定しません。

 適当に理由をでっちあげても構いませんし、特に理由の説明をつけなくても問題ありません。とにかくアンセルムにいたのです。

 買い物をしたい方はこのカテゴリの間、つまりアンセルムにいる間は通常材質・通常品質の武器および通常のアイテムに限り自由に買い物をしていただいて結構です

 また、魔晶石については、3点までのものをひとり3個まで購入可能、とします。

 ただし、これらの買い物については「事前に済ませていた」という扱いとしてください(シナリオ上、このあとのんびりと買い物をする時間はありません)。
 事前に済ませていたということにする限り、オランで買い物をしていたという扱いでも問題ありません。

 買ったものはキャラクターシートに反映させ、GMにその旨伝えてください。
 アンセルムを離れたあとは、特に武器などは手に入らなくなるとお考えくださいね。

 なお、フリクセルの説明に出てきた「コボルド」「ゴブリン」「上位種については、それぞれセージ技能による怪物判定を行っていただいて構いません。このうち「上位種」についてはロード分とシャーマン分の2回に分けて判定を行ってください。