後日談:ラデクとローナム

GM(Lain) 2013.04.19 [02:28]

 巨人たちは算を乱して逃げ去った。
 危険といえば危険ではあるが、その危険はつまるところ大型獣の危険である。

 巨人たちは彼らのみで緻密な作戦を立てて村を襲うような類のものではないし、迂闊に手を出せば手痛い反撃を受けることは、彼らの脳にも充分に理解されたことだろう。

 つまるところ、当面の脅威は去った、ということになる。

※ ※ ※

 ただひとり残された闇の妖精の運命は、最初から決まっていた。
 彼もそのことを悟っていたのだろう。

 彼は、どのような方法で、何を問われようと、一切を答えることなく死んだ。

※ ※ ※

 村の避難は、事前の予想のとおり、ひと騒動ふた騒動あったようではあるが、概略順調に進んだものであるらしい。

 らしい、というのは、冒険者たちの誰一人としてその過程を目にしなかったからだ。
 だが、村へ戻り、避難を始めた村人たちに追いつくまでにかかった時間――相当に急いで進んでも、追いつくころには夜が明けきっていた――を考えれば、そのように解するほかはない。

 無論、順調さの陰には従士たちの無茶があった。

 彼らは、避難を渋る高齢の村人に対して、言った通りのことをしたようだ。

 大騒ぎをして避難したものの、結局村に妖魔どもは来なかったとあって、無茶をされた村人たちの感謝は冒険者に、そして怒りは従士に向いた。
 従士たちは殊勝な顔をして詫びてみせたが、それもいっときのこと。
 彼らはそのまま、ローナムへの報告の途についた。

※ ※ ※

 暗夜と疲労を押して捜索を続けたにせよ、態勢を整えてのちに捜索を再開したにせよ、冒険者が見出すものはさして変わらない。

 すなわち、もぬけの殻となった妖魔どもの、そして巨人たちの巣である。

 いずれも冒険者たちが捜索を担当するとされた領域の端、村からはかなり離れた位置ではあった。
 彼らがいかにして共同し、村を襲撃するという話がまとまったのかは定かでない。

 闇の妖精と妖魔の呪術師の間に、何らかの約定があったであろうことは容易に想像できる。

 だが今、その棲家、山の崖に穿たれた小さな洞窟に、棲む者はない。

 いまだ逃げ散ったまま戻っていないのか、それとも既にここからも逃げ去ったのか。

 いつまでも山中で待ち受けるわけにもいかないとなれば、洞窟を使えぬように封鎖する、という程度のことになろう。
 資材と人手を使う作業となるゆえ、実際の封鎖は騎士と従士たちに任せるのがよいように思われた。

※ ※ ※

 従士たちが山を下りてから5日ののち、ラデクに騎士たちが到着した。

 騎士の一団を率いるのはエリクセン、ローナムで冒険者たちと会合したあの騎士である。
 既にある程度の事情を聞いてはいるのだろう、かれは開口一番、冒険者たちの仕事を讃えた。

「巨人と妖魔の両方が同時に攻めてくる、というのはまさに大事としか言いようがない。
 大事を前に退くことなく脅威を撃退し、村を守ってくれたこと、わが主と領民にかわって礼を申し上げたい」

 礼とは言っても礼のみで懐が暖かくなるわけでもないゆえ、と断りながら、かれは金貨の詰まった袋を取り出した。

「96枚ある――いや、子爵からの、本来の依頼の分とはまた別のものだ。
 貴公らの働きによる、という部分、その追加の報酬とお考えいただこう。
 感謝の念を金銭に換えることはできぬが、それこそ我らの感謝が貴公らにとってものの役に立つかといえば、」

 言葉を切り、全員の顔を見回して破顔する。

「まあそのようなわけであるから、受けとっていただきたい。
 ついでといっては何だが、ひとつ仕事を頼まれては貰えないだろうか。
 なに、難しい話ではない――今回の一件の報告書を、わが主、子爵に届けていただきたいのだ」

※ ※ ※

 村人たちに『暴挙』をはたらいた二人の従士は、エリクセンに処罰された。

 エリクセンの言は、概略、次のようなものである。

「危急の折にあってこれに応じた行動を取ったことは、従士としてまことに天晴である。
 だが、いかなる理由であれ、騎士従士は領民を粗略に扱うことがあってはならない。
 なんとなれば、領民は領主たる子爵が庇護するものであり、子爵が庇護するものであれば子爵の部下たる騎士従士も当然これを庇護すべきものだからである。
 しかるに、たとえ危急の折であれ、領民にかような横暴をはたらくことは従士としてあってはならないことであり、処罰さるべきであろう。
 従士ボリス、従士クラエスの両名は、ローナムへの帰還から半月の間、代官公邸への出仕を停止とする。
 この半月の間は教練も含めた一切の公務に携わること罷りならん。よく承知しおくように」

 伝え聞いた村人たちは、騎士様はさすがに厳しいと唸り、しかし領民のことを大事にしてくださると頷きあった。

 ふたりの従士はしおらしく頭を下げたが、冒険者たちは知っている。
 エリクセンが出て行ったあとで、ふたりは顔を見合わせ、どちらからともなく笑みを浮かべて頷きあっていた。

「あれって、要はさ」
「――だよな」

 その短いやり取りで、ふたりは互いに了解したもののようだった。

※ ※ ※

 その夜、ささやかな宴が開かれた。

 脅威のすべてが去ったわけではないが、当面の村の安全は約束されたものと見てよいだろう。

 宴の主役は無論、安全を約束した当の本人たち、すなわち冒険者だ。

 冒険者たちのもとには村人たちがかわるがわる現れ、あるいは酒を注ぎ、あるいは料理を勧め、あるいは話をせがむことだろう。

 宴は空が白むまで続くことになる――夜が明ければ、冒険者たちは村を去ることになるのだが。

※ ※ ※

 ローナムに戻った翌日、一行はオランへの帰途についた。
 バウゼンはもうしばらくローナムに残るつもりだという。

「もともと北へ向かう旅の途中でしたから」

 そう、彼は言った。

「道中、どうかご無事で。
 ――いや、まあ、あの戦い以上に手強い敵など出てきはしないでしょうが」

 そう言って笑い、彼は一行を見送ってくれた。

 見送りに出てくれた者が、さらに二人いる。
 ボリスとクラエスだ。

「いやなにせ出仕できないもんで」
「まあアレ、態のいい休暇だよな」

 ――つまりはそういうことであるらしい。

「謹慎なら兵舎から出られんですからねえ」
「村人の手前、罰って形を取ったんでしょうが」

 危険な任務のあとには休暇が与えられるのが通例で、今回はそれが少々長いのだという。

「まあともかく、助かりましたよ。
 突破されたりしてりゃあ、俺らだけじゃどうしようもなかった」
「両面作戦ってのは予想外でしたが、それでも何とかしちまうんですからね。
 冒険者ってのはやっぱりたいしたもんです」

 そのようなことを喋りながら、ふたりは市門まで一行を送った。

 ではここで、と足を止め、めいめいが全員に握手を求める。

「また是非、来てください」
「楽しみにしてますよ」

 そう言って手を振り、彼らは街の中へ戻っていった。

※ ※ ※

 ローナムを出れば、オランまではおよそ半月の旅程である。
 戻った頃には秋も終わり、冬の入り、ということになるだろうか。

 旅をするに快適な季節とは言えないが、冒険者たちの足取りはけっして重いものではない。

 依頼は成功裏に終わり、そして冒険者のひとりとして欠けることはなかった。
 危険ではあったけれど、しかしそれこそが冒険者の領分だ。

 いまや冒険も終わり、あとは依頼主への報告のみ。
 足取りが軽くなるのは、ごく自然なことである。

-------------------------------------------------------
■GMから

 この記事への返信は「500_後日談」カテゴリにチェックを入れて投稿してください。


 とりあえずさくっとオランに帰る手前まで話を進めてしまいます。
 戦後処理に関するもろもろについてはここまで描写したとおり、ということでひとつ。

 このあたり、ゲーム的には特に影響がないという事情と、
 じっくりやるだけの時間的な余裕がないという事情により、
 さくっと飛ばさせていただいております。

 明日か明後日にはGMからの最終レスを入れ、本編を〆て解放処理に移ります。

 少々早くはありますが、ひとまずお疲れ様でした!