強行軍の果てに

アイリス(一葉) 2013.04.18 [21:32]

 駆ける、駆ける。
 走るのはむしろ好きな部類に入るけど、昼間は山道を調査して、結局休む暇もないまま後退、伏撃、戦闘をこなした上で、更に夜の闇の中を全力で駆けるのはこたえる。

「......ふっ!」

 息が切れ、汗で前髪が肌に張り付く。
 立ち止まればしばらく動けなくなりそうな程に足の感覚は薄れ、まるで慣性の力だけを用いて動き続ける機械人形のように、ただひたすらに駆ける、駆ける、駆ける。

 常識的に考えれば、あたしたちの戦いが終わった時点で北東側も終わっているはず。
 またダークエルフとオーガーを相手取ってできる事などたかが知れている。
 故に、この強行軍に何の意味があるかと問われれば、自己満足に他ならない。
 それを唾棄すべき感情と冷淡に笑うあたしと、少しでも可能性があるならやってみるべきと叫ぶあたしがせめぎ合い、結局深く考えるのは止めた。果てにあるのはただただどす黒い自己嫌悪でしかないからだ。

 まあたまには、セーギのミカタも悪くないっしょ。
 そんな曖昧な、甘い甘い逃げという名の結論に溺れながら。


 * * * * *


 見えた。
 丸太橋と、それを照らす明かり。
 人影。

 川の中でオーガーと対峙するセクトールとエリーズ。
 丸太橋の先で転倒するミル。
 その向こうで崩れ落ちるダークエルフ。

 良かった。
 状況は分からないが、三人は無事だった。
 これでも班分けをした手前、責任だって感じる所はあった。
 それが実ったのはただただ嬉しい。

 ヴェンがゴブリン・シャーマンの首を投げる。
 その光景はどこまでもおぞましいモノでしかないけれど、あたしは何故か吹きだしていた。

「......はっ、なんかっ、こうっ、何してんだろうねっ、あたしたちはっ」

 汗みずくになり、膝に手を当ててついに足が止まる。
 酸素が足りない。乳酸が全身に溜まっている感じ。喘ぐように呼吸を繰り返す。膝は今にも崩れ落ちそうだ。

 

> 「よかったわ・・・・」
> 「だ・・・め・・・また来る・・かも・・・しれないわ・・・」

 

 バーラーも息も切れ切れだ。
 だけどそのセリフが意図しているモノは分かった。
 オーガーがモラルブレイクして逃走を図る光景があたしにも見えたから。

「今っ、こられたらっ、さすがにっ、何もできねえわっ」

 喋るのも辛い。

 

> 「おーい、ヴェン!
>  首とったかー、ウチは首なし
>  ウチの負けや」

 

 ミルの声がする。

 とりあえず。とりあえずは。
 勝ったって事が分かったから、もうちょっとだけ強がりたいけれど。
 ちょっち手を挙げるのもキツイわ。

 

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PL@一葉より:
 戦闘お疲れ様でした。
 とにかく勝てたのは僥倖でした。私もホっと胸を撫で下ろしている所です。

 さて今後ですが、このままの追撃は私的には反対です。
 理由は四つ。
 一つはメタ的に、基本的にこれ以上の火急的な危険はないと判断できる事。
 一つはリソース的に、こちらの消耗具合も追撃を試みる程の余裕がない事。
 一つは状況的に、まず従士への報告とローナムへの伝令を走らせるべきと考える事。
 一つは時間的に、夜である事。
 以上です。

 皆が皆追撃すると言うなら反対で押し切る事はしませんが、
 従士への報告は最優先必須だと思うので、アイリスはそちらに向かわせます。

 またダークエルフを捕縛できるのであれば、
 巣穴は探索せずに情報を吐かせてしまえばいいでしょう。
 ともかく、現時点で追撃を試みるメリットが私には見えません。