なすべきことども

GM(Lain) 2013.02.26 [00:25]

 部屋を訪れた冒険者たちを、ふたりの従士は歓迎した。
 型通りの挨拶をしはしたものの、まだ若いためもあり、すぐに打ち解けた様子になる。

 手土産の菓子が振舞われ、加えて酒も入るとなれば尚更だ。

 わざわざすみませんねと礼を述べながら、彼らは遠慮なくバーラーの持ち込んだ菓子を頬張った。

「ローナムで大概のものは揃いますが、さすがに菓子ってのはねえ」

 クラエスは言い、

「こういうのご馳走になるとやっぱ都会すげえやってなりますよねえ」

 ボリスも相好を崩す。

 彼らふたりはオランの話を聞きたがり、また子爵領の近況も問えば問われるままに話すことだろう。

 妖魔のこと、廃砦に巣食う賊のこと、騎士団の教練にかかわる諸々。

 エリクセンの、そして子爵の言はここでも裏付けられる。
 課題は課題として根本的な解決を目指しつつ、しかし今は当座を凌がねばならない。

 将来的な解決と当座の対処と、双方に力を割くことはできず、ために外部の力を、たとえば冒険者を、頼る必要がある。

「ま、俺らは歓迎なんですけどね。
 魔術師さんやら神官さんやらがいるとなりゃ、普段無理な敵だってどうにかなる」

 ルーンマスターと呼ばれる、魔法を操る才ある人材は貴重だ。
 辺境の地方領主がそういった人材を多く抱えておけるでもなく、ゆえに戦闘は個の力・数の力の押し合いとなりがちだ。

 冒険者が重宝されるのは、超常の力、魔法を操る者の比率の高さも理由のひとつ、ということであるらしい。

※ ※ ※

 ラデクに到着した一行は、すぐに村長の家へと案内された。

 寒村のことゆえ豪華とは到底言えないものの、食事が供され、一息ついたところで依頼の話となる。

「ラルセンと申します。
 遠いところをありがとうございます」

 食事の間に呼ばれていた猟師や樵、炭焼き職人などが顔を見せ、冒険者たちに問われるままに目撃した箇所などを証言する。

 騎士たちの言ったとおり、証言は村から北側に集中していた。

radek_01.png 村から北西に向かって山道が伸びており、それは村の中心から小半刻ほど歩いた牧草地の中で2方向に分かれる。

 目撃の報があったのはこの道の先で、北西側で妖魔の目撃証言が複数個所にわたって挙げられた。
 尾根から荒地を歩く妖魔を見たというもの、森の木々の先に妖魔を見かけたというもの、尾根を移動する妖魔を見たというもの、場所も状況も様々だ。

 他方、川を渡った北東側では目撃証言は1回、見たのはふたりの猟師のみ。
 荒れた尾根に、巨人の姿を見たという。

「あれは妖魔なんぞじゃなかった、絶対に、人間よりもかなりでかかった筈だ」

 ふたりの猟師は口を揃えてそう証言する。

 村としては半信半疑ながら、念のためもあり、以後北東側の尾根方面へは行かない、ということになっているらしい。

「どちらの道の先も猟師たちの狩場があり、また北西の森では材木を切り出したり炭を焼いたり、といった具合で――」

 ラルセンはそう説明した。

 今のところ被害は出ておらず、さりとてこのままでは冬を越すために必要なあれこれを得るために山に入ることもできず、といった状況に参っているもののようだ。

※ ※ ※

 村の状況をひとわたり見て回れば、これもおおむね騎士エリクセンの説明のとおり、ということが解るだろう。

 人口は二百から三百のあいだ、戸数は百に満たぬほど。
 人の背丈をやや越える程度の防柵があるにはあるが、これは丸木を格子状に組んだものだ。
 ために、手を使える(そしてその程度には知恵のある)妖魔どもであれば乗り越えるのにさほどの苦労あるまい。

 村人はおおむね農夫や牧童、樵であって、武器の扱いに長けたものは少ない。
 わずかに猟師たちが弓矢を使いはするが、どこまで当てになるものであるかは判然としない――妖魔に矢を射掛けうる腕前を持つことと、妖魔に矢を射掛けることには大きな差異がある。
 己の命が危険に晒されうる状況で踏みとどまり一矢を放つことがいかに困難であるか、冒険者であればこそ理解できるところではあるだろう。

※ ※ ※

 避難の準備、という言葉に村長ははじめ驚き、次いで難色を示した。

「たしかに妖魔は恐ろしいものではありますが――」

 まだ村の近くまで寄せてきたわけでもないのに、なぜ、とその顔が問うている。
 いざというときの、あくまでも念のため、という言葉を冒険者たちから聞けば、まあ備えは必要でしょうが、とどうにか納得することだろう。

「子爵もむざむざと村を捨てろと仰っているわけではありません。
 それが証拠に、冒険者殿に加えて我々も派遣されております。
 どうにもならなくなったときに、それでも領民を死なせてはならぬとの仰せなのです」

 先日の酒宴の、あるいは道中の様子とはやや異なった調子で、ボリスが口を添える。
 子爵の名を出されてはそれ以上反論もできず、ラルセンは頷いた。

 あいつああいうの巧いんですよね、と、こちらは前に出ず冒険者たちの後ろに控えていたクラエスが口の中で呟いた。

※ ※ ※

「それじゃ、俺らは避難の計画をも少し詰めておきますから」

 一通りの話が終わり、さて次は、という空気になったところでクラエスは冒険者たちにそう申し出た。
 ボリスもああそれが良さそうだな、と同意の態だ。

 時刻は昼をやや回り、午後の半ばといったところ。

 早速探索に出るにせよひとまず情報を収集するにせよ、時間が有り余っているというわけではない。
 従士たちの申し出は、そのあたりを慮ったものと思われた。

 さて、まずは何をすべきだろうか――?

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■GMから

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 ご迷惑をおかけいたしました。
 ひとまず進行できる程度には回復しておりますありがとうございます。


◆従士さんたち
 菓子と酒は喜ばれました。
 特に菓子ですね。甘いもの=高価かつ珍しいものなので喜ばれます。
 めったに口に入らないものですので!

 というわけで、だいたい打ち解けた感じになっております。
 餌付け重要。


◆ラデク
 地図の北西、赤い楕円が妖魔の目撃地帯です。
 この中で目撃の報が複数上がっているとお考えください。
 他方、地図の北東の赤い×印は巨人(猟師談)の目撃地点です。

 茶色の点線は山道です。おおむね尾根を通っています。


◆避難計画
 大筋として、万が一のときはローナムまでの避難、というのを前提に、従士と村長で話を詰めるようです。
 具体的な計画は彼らに一任、ということであれば、今後特に意識する必要はないでしょう。

 実際の避難計画に携わりたいのであれば、到着当日の午後をまるまる使う必要がありそうです。


◆今後の行動
 この段階で、全員でまとまって行動する必要はありません
 聞き込みなり周辺状況の確認なり、自由に動いていただいて結構です。

 もちろん、早速探索行、ということでも問題ありません――森に入ってそう歩かないうちに日が暮れそうではありますが。

 聞き込みなら夕食までに2箇所、というかふたりくらいに聞き込むことが可能です
 大まかに、

 ・妖魔を目撃した樵や猟師
 ・巨人(?)を目撃した猟師
 ・村長
 ・その他牧童や樵など、村の周囲に詳しそうな人々

 このくらいが候補でしょうか。
 ほかに「こんな奴から情報がほしい!」というものがありましたらリクエストをくださいませ。

 周辺状況の確認なら、夕食までに1箇所程度は回れそうです

 ・北西側の山道(尾根へ上がる手前まで)
 ・北東側の山道(川を渡り、尾根へ上がる手前まで)
 ・畑や牧草地全般(村の周囲をぐるっと)
 ・フラナリー街道と橋

 なお、バウゼンは単独で情報収集させることができません。
 誰かに随行させることは可能です。
 放っておくと従士と避難計画のあれこれの手伝いをしています。

 ほかにやっておきたいことなどあれば、こちらもリクエストをおねがいしまーす!