フラナリー街道へ

GM(Lain) 2013.02.20 [21:44]

> 「これはこれは、不教養で不躾な発言で不快にさせて、申し訳ない。 エリクセンの旦那。」

 深々と頭を下げて詫びの言葉を口にし、名乗ったヴェン、続いて頭を下げたセクトールとエリーズに、エリクセンはいやまあそうかしこまらずとも、と言葉をかけた。

「われわれは立場も事情も違いはするが、すくなくとも妖魔に対処せんとする目的は同じのはずだ――違うかな」

 そこさえ共通するのであればいっときの――報酬を介した間柄であるとはいえ――仲間ということだ。
 まあ、報酬を受け取るまでの我慢と思ってよろしく頼むよ。

 幾分かくだけた口調でそう言い、エリクセンはヴェンに握手を求めた。

※ ※ ※

> 「夜が駄目? 烽火が見えない?見張り台や高台もない?」

「村から離れた高台に烽火台を作るのは、どうにも――」

 エリクセンは語尾を濁したが、要は金の問題、ということであるらしい。

 資材を運び上げ、狼煙をいつでも使えるよう保たねばならない。
 それはつまり、その場に拠点を作って兵を――人を常駐させねばならない、ということでもある。

 交代要員を考えれば最低ふたりか3人を二組。
 彼らを風雨から守るための屋根と壁、食糧その他の消耗品。
 街との連絡手段の確保――つまりは道の整備も。

 それを、村ごとに、伝達の遺漏がないよう整えるためには。

 作るまではまだよいとしても、維持と管理に決定的に金がかかる――それこそ、地方領主の財政規模では賄いきれないほどに。

 防衛設備もまた然り。
 作り上げた防衛設備は、維持できねば意味をなさない。

 維持するためには人手を、労力を投入せねばならない――誰が、といえば、村人たちが、だ。

 それでなくても厳しい山村の生活から、生活するための人手を割いて防衛設備に回す。
 そんな余裕はどの村にもまだない。

 開拓が進み、村そのものに余裕が生じれば人を雇うこともできようが、現実問題としていまはどの村もエストンの山中に入り込んだ小さな村にすぎない。

「貴公には貴公の不満があろうが――」

 大きなため息とともにエリクセンは言う。

「村人には村人の生活があり、我ら騎士貴族には我らの悩みがある。
 備えが万全でないことは承知の上で、いやそれゆえにこそ貴公らに頼むのだ。
 報酬は支払うゆえ、どうか手助けをして貰えないか、と」

 どうかよろしくお願いしたい。

 騎士はそう言って、頭を下げた。

> 「微力ながら、我々も尽力を尽くし、出来うる限り最悪の事態は避けるよう努力します。この依頼お引き受けしましょう」

「期待させていただこう」

 セクトールの言葉に、エリクセンは頷いて笑った。

※ ※ ※

> 「もしー、エリクセン様から紹介頂いた冒険者のアイリスと言いますがー。
>  ボリスさんとクラエスさんおられますー? ちょっとお話しませんかー?」

 はい、おりますよー、と軽い返事で顔を覗かせたのはクラエスの方だ。

「出る支度してたもんでちょっと散らかって――おっと」

 言葉が途中で切れたのは、アイリスの手にしたものが目に入ったからだろう。

「周到ですね、実にいいですねえ」

 へへ、と笑い、

「ボリス、片付けちまおうぜ。
 冒険者さんが話してえってよ。手土産つきで」

 肩越しに部屋の中へ声を投げる。

 おーう、という応答があった。
 招き入れられた部屋の中を眺めれば、散らかっている、という言葉ほどには乱雑な状況でもない。
 狭い部屋ではあるがそれなりに小奇麗に使っているようだ。

 部屋の一隅に装具が並べられているのは、おそらく点検中ででもあったのだろう。
 ふたりの従士は、ちょっとだけすみません、と

 支度、とはいっても従士であるから、すでにできていた準備の状況を確かめる程度のものであったらしい。
 手早く荷物を片付け、小さなテーブルと2脚しかない椅子をこれもいいやと脇へ寄せ、幾人かが座れる場所を作る。

「オランからってお話でしたが」

 口火を切ったのはボリスだった。

「俺らふたりとも、オランの冒険者さんにお世話になったことがあるんですよ」

 クラエスが口を添える。

 冒険者たちがミノタウロス亭を常宿にしているとわかれば、ふたりは一層表情を緩ませることだろう。

「マルドルさんやガラフさんはお元気ですか」
「ルーイさん、バルカさんやマークさんも」

 懐かしそうな表情で口々に言う。

「そう言えばさ、ジゼルってまだアレ続いてんの?」

 くだけた口調は同僚ゆえか、ボリスがクラエスに尋ねる。

「続いてるらしいよ、中身教えてくれねえけど」

 答えたクラエスが、ああ、と会話の中身を補足する。

「去年お世話になった冒険者さんとね、仲間の従士が手紙のやり取りしてるんですよ。
 ルーイさんって魔術師さんなんですけど、ご存知ないですかね。
 オランに戻ったら、ジゼルが顔見たがってたって伝えてやってください」

 とりとめもない話は、その後もしばらくの間続いた。

※ ※ ※

 翌朝。

 一行は、バウゼンという名の冒険者を紹介された。
 軽装だ――マントを羽織り、革鎧を身につけている。

「バウゼンといいます。どうかよろしく」

 簡潔に挨拶をし、握手を求める。

 装備や立ち居振る舞いなどを見るに、経験はアイリスやヴェンたちとそう変わるものではなさそうだ。
 ただ、そこそこ旅慣れてはいるようで、その面での心配は必要ないだろうと思わせる。

「大所帯になりますが――」

 冒険者の6人、従士のふたりを見回してバウゼンはそう言った。

「少なくともこれなら、道中妖魔に襲われる心配はなさそうですね」

※ ※ ※

 シリルを通り、ラデクまでの道中は特にこれといった事件もない。
 バウゼンの言うとおり、ある程度の人数が集まれば妖魔も山賊も、それだけで襲いづらくなる。

 街道を行きかう旅人を襲うのは妖魔にとって己が生きるための狩りであり、であれば群れているところを下手に襲って反撃される、というような危険は避けたいところだろう。

 これが、危険を冒して襲っても割が合うだけのあれこれを貯め込んでいる集団、となると少々話が変わってくる。
 たとえば、山中に開かれた村のような場合だ。

 シリルで得られた情報は、さほど多くはなかった。
 それらはローナムとオランでの情報を裏付けるものではあったが、それ以上のものではない。

 先行した冒険者たちはたしかに街道を北へ向かったようだが、今のところ彼らがもたらした情報はない。

 ボリスとクラエスは、立ち寄る村ごとに、どうやらエリクセンからのものであるらしい書状を村の長に示して協力を依頼している。
 どうやら、万一のときのために飼葉などを確保していてほしい、ということのようだ。

「欲を言えば替え馬が欲しいところではあるんですが」

 まあ、村自体にこっちへ回す馬の余裕が無いんじゃあ――。

 そう言ってボリスが嘆息した。
 彼の言葉通り、馬はいたにしても農耕馬で、人が乗って山中の街道を駆けられるようなものではない。

「あるもので何とかするしかねえんだよなあ」

 苦笑気味にクラエスが答える。

 冒険者たちがラデクに到着したのは、予定通り、ローナム出発から4日半の後、5日目の昼過ぎのことだった。

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■GMから

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 長くなったのでラデクでのもろもろは次回ですん。

 あと、買い物とか大丈夫ですよね。
 ここから先は基本的に新たな装備等を手に入れることは困難になります。

 買い物や依頼人への物資補充要請などはおはやめに(具体的には次回進行&カテゴリ変更前に)どうぞ!


◆従士との顔合わせその他

 従士との顔合わせと情報交換は普通に可能です。
 ノリはあんなかんじなので、お好みに応じて適当に描写してあげてください。
 名前が出てきてるのは以前あさるとに参加したPCたちです。
 知り合いがいたら近況など教えてあげると従士たちが喜びます。


◆GM的ぶっちゃけ話

・エリクセンは基本的に身分の差をどうこう言いたいわけではないのであっさりと矛を収めます。
 彼が、有体に言えば「こいつ大丈夫か」という態度になったのは、要はこの会話がビジネストークだからです。
 専門職の自営業者が、仕事を渡そうとしているクライアントに対して最低限の礼儀を無視した態度をとれば、礼儀を気にしない(=それで機嫌を損ねない)クライアントであっても不安にはなりますよね。
 つまりそういうお話だったというわけです。

・もろもろの戦略的対応がなぜできていないか、といえば、一言にまとめると「金がないから」ということに尽きます。
 設備は設置のための費用でなく、維持にかかる人手と費用がわりと馬鹿になりません。
 というかコスト全体で見ると維持費用のほうが大きかったりすることもままあります。
 そのあたりも考慮するとなかなか難しい、ということですね。

・逆に、冒険者には物惜しみせずに金を払えるのもこのあたりが理由です。
 冒険者に払う金は一度払ってしまえば終わりなので、その後の出費に関して頭を痛める必要がありません。
 また、街道を通行する商人たちが落とす金やら街道筋の村から納められる税金やらを考えると、だいたい冒険者が今回受け取っている額の1桁か2桁は上を行くことになるはずです。

・騎士をいきなり投入できない事情というのも、さきに紹介した食糧その他の話のほか、このあたりにも理由があります。
 十分な力を発揮できない可能性が高い環境に投入するには、騎士団は育成や維持にかかるコストが高すぎる、というわけです。
 避けられない損失は所要のコストとして折り込み済みですが、余計な損害を出して平然としていられるほどの余裕はない、ということですね。

・結局エリクセンは「そのあたり踏まえたうえで協力してください」と言って頭を下げております。
 ビジネストークですからね!

・とまあ、内情は明かしていくとどんどん世知辛く、かつみみっちい話になっていくのでこのあたりで「提示された条件はおおむね動かしがたい前提である」という形に手を打ちたく思うのですがいかがでしょうか!>みなさま


◆バウゼンの扱いについて

 ルーンマスター、という曖昧な表現にしたのには明確な理由があります。
 バウゼンは、GM側で技能構成を決めておりません。種族と性別は決まっております――人間の男性です。

 GMが指示したタイミング、またはそれ以前の任意の段階で、PLさん側で所持技能その他を決めてください
 能力値は以下の方法で決定してください。

 ・12/13/14/15/16/17 を各能力値に振り分け

 技能は以下の3択です。

 ・プリースト:プリースト(五大神のいずれか)2/ファイター1
  ・筋力上限までのハードレザー/スモールシールド/筋力上限までの片手剣類

 ・シャーマン:シャーマン2/レンジャー1
  ・筋力半分までの革鎧/筋力半分切り上げまでのロングボウまたはショートボウ

 ・ソーサラー:ソーサラー2/セージ1
  ・筋力上限までのソフトレザー

 決定のタイミングは「GMが指示したタイミング」または「所持技能のいずれかを使って技能判定を行おうとするタイミング」です。
 少々複雑ですがよろしくご検討くださいませ!