そのはじまり

GM(Lain) 2013.02.07 [02:10]

 秋の深まるころ。
 エストンの山々も、背の高い順に雪の冠を被りはじめる。

 王都ではこの時期、雲ひとつない晴れの日が続く。
 冬に入り寒さが厳しくなるにつれ、雨が増えてゆく、その前のつかの間の晴れ間。

 陽気に合わせてか、オランはどこか浮き立った雰囲気に包まれる。

※ ※ ※

 街が浮き立つ中にあって、冒険者の店・角なしミノタウロス亭も賑わっている。

 人出が増えれば酒場としてのミノタウロス亭も当然のように賑わうし、人の往来が増えればそれだけ厄介ごとの数も増える。
 未然に厄介を防ごうとする旅商人は護衛を雇いたがるものだし、収穫の済んだ穀倉を狙う妖魔どもが活発に動くのもこの時期だ。

 他人の厄介ごとをかわりに引き受けて食事の種とする冒険者と冒険者の店にとっては、ある種の稼ぎ時と言えるかもしれない。

 そんな秋の、昼すこし前のこと。

 冒険者たちは朝寝坊を決め込んでようやく起き出してきたところであるのか、
 新たな仕事の準備として武具の手入れでもしていたところであるのか、
 依頼を待ちながら仲間と時間を潰しているところであったか、
 はたまたたまたま食事をしに来たところであったか。

 ジョージは新しい依頼が書かれた羊皮紙を持って思案顔だ。
 店内を見回し、ややあって冒険者たちに声をかける。

「よおお前ら、手が空いてるならこんな依頼はどうだ」

 妖魔の拠点の捜索依頼。
 報酬はひとり800ガメル。
 前金2割、路銀支給。

 ジョージが差し出す羊皮紙を見れば、そこに書いてある依頼の内容はどちらかと言えば駆け出し向きと知れる。

「お前らにゃぴったりの――ミルやセクトール、エリーズには軽すぎる仕事かもしれんが、数が要るって話だからなあ。
 まあ、ちっと安いが、こっちの、」

 言いながらもう一枚の羊皮紙をひらひらと振ってみせ、

「――監察室絡みの案件よりは、お前さんたちにゃ合ってると思うんだがね」

 そう悪い話じゃあないと思うぜ、とジョージは語る。

「期限にゃまだ余裕があるが、ほかの奴らが乗るって言やあそっちに回すことになる。
 今んとこ競合しそうな連中はいねえんだが、」

 なにやら書き付けてある帳面にちらりと目をやり、

「そろそろ別の依頼に出てる奴らも戻ってくる頃合、ってのがあるからなあ。
 決めるなら早めに頼むぜ、善は急げ、ってよく言うだろ?」

「で、どうだ。
 ――ひとまずは話だけでも、聞いてきちゃくれねえか?」

※ ※ ※

 依頼人に指定された場所はオランの街中にある貴族の屋敷。
 一等地、というには少々、市の中心街からは外れている。

 門衛に来意を告げれば、冒険者たちは屋敷の一室に通される。
 部屋の一隅には火の入った大きな暖炉、中央にこれも大きな円卓。

 待っているのは屋敷の主人にして依頼人、アンセルム子爵だ。

 40をいくつも過ぎないというが、痩せた身体からは壮年の男性がもつある種の力強さを感じない。
 色白の細面に白いものの交じる金褐色の髪、柔和そうな藍色の瞳。
 幅の狭い肩から上掛けを羽織り、時折乾いた咳をする。
 身体が弱いのか、病なのか、あるいはその両方であるのかもしれない。

「フリクセル=セレンソンです」

 穏やかな声でそう名乗り、かれは冒険者たちに椅子を勧める。

「どうぞ、かけてください」

 控えていた使用人に頷くと、使用人は円卓に地図を広げた。

snake_02.png 椅子に腰を落ち着けてから、かれは思い出したように問うた。

「よい日柄ですが、さすがに少々寒くなりましたね。
 暖かい飲み物でも持ってこさせましょうか」

 冒険者たちが注文を述べれば、使用人がそれを聞くことだろう。
 全員の注文を聞き、一礼して、使用人は部屋を出ていった。

※ ※ ※

「さて、本題ですが」

 フリクセルは切り出す。

「宿のご主人から、おおよそのところは聞いておられますね?」

 言いながら、彼はフラナリー街道、と記された街道を指差す。

「この街道――蛇の街道の側道ですが、このフラナリー街道沿いで、妖魔が常よりも活発に動いているようなのです。
 例年この時期、数件は妖魔を見たとの報告が上がるのですが、今年は普段の年よりもそれが多い。
 今までほとんど妖魔の出たことのなかった村からも、目撃の報が寄せられております」

「今のところ村や人が襲われたという類の、直接的な被害の報告はありません。
 ただ、目撃報告の数が多く、例年見かけぬ場所で見られた、という状況なのです。
 また、確報ではありませんが、巨人の類を見た、との報まで出ております。
 おそらくはホブゴブリンなどを見誤ったものでありましょうし、仮に事実であったにせよオーガーなどの下位巨人種でしょうが、山中の寒村にとっては十二分な脅威、というよりもむしろ災厄と言えましょう。
 放置すれば直接的な被害もいずれは出ましょうし、たとえそういった害がないにせよ、妖魔が出るというだけで周辺の村々は怯えて暮さねばなりません」

「無論、本来、こういった害に対処し、民人の安寧を守るは騎士団の役割です。
 ですが――」

 山狩りをするにも、闇雲に兵力を山へ送り込むわけにはいかないのだ、と子爵は語る。

「妖魔どもを狩り出すならば巣を明らかにせねばなりません。
 大規模な捜索を行えば妖魔どもも騎士団の動きに気付きましょうし、そうなれば討ち漏らす可能性は低くありません。
 また、上位種に率いられた妖魔は妖魔らしからぬ知恵を持つ集団となります。
 であれば、伏撃なども考慮に入れねばならない」

 ひとたび敵を捕捉し、正面からぶつかることができれば、騎士団は有効な打撃を与えうる。
 だが山中、目立たぬように敵の本拠を探りつつ戦う、というような仕事は得手ではない。

「そういった仕事には、冒険者である皆さんのほうが適任であろうと考えております」

「ゆえにあなたがたに依頼したいことは、妖魔どもの巣の捜索です。
 必ずしも行き会った妖魔を殲滅することを求めるものではありません――が、無論、あなたがたの腕前に頼らぬという話でもありません。
 求めるものは情報ですが、その過程で妖魔を討っていただけたならば、その数と質に応じて報酬を引き上げましょう」

 いかがでしょうか、と子爵は問うた。

「お引き受けいただけましょうか?」

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■GMから

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 導入です。

 お読みいただいておわかりのとおり冒険者の店のシーンはさくっとすっ飛ばしておりますが、店や道中でのあれこれは適当に描写し、ロールプレイしていただいて構いません(もちろん、GM同様にさくっと飛ばして依頼人との会話シーンからでも結構です!)。


◆質問などについて

 質問やリクエストなどは随時受け付けますのでがんがんどうぞ!

 PCレベルの(キャラクターとしての)質問でも、PLレベルの(プレイヤーとしての)質問でも受け付けます。
 PCレベルの会話や質問はキャラクターの台詞として、PLレベルの質問や相談は「PLから」パートで、というふうに分けて書いていってくださいね。

 この記事の前半がNPCの台詞と描写、後半が「■GMから」と分かれているのが一例です。


◆買い物などについて

 買い物をしたい方はこのカテゴリの間、つまりオランにいる間は、通常材質・通常品質の武器および通常のアイテムに限り自由に買い物をしていただいて結構です

 前金は報酬800ガメルのうち2割ですので160、6人分で960ガメルです。
 分配はもちろん、PCの差配に任されます。
 たとえば必要な装備を整えるのにお金がかかるひとがいれば、多めに配分する、などという調整も可能です。
 PC同士・PLさん同士で相談して決めてください。

 マジックアイテムは魔晶石のみ購入を認めます
 3点までの大きさのものを、ひとりあたり1d3個まで購入可能、としましょう。

 買ったものはキャラクターシートに反映させ、GMにその旨伝えてください。
 オランを離れたあとは、基本的に武器などは手に入らなくなるとお考えくださいね。