子爵邸にて

GM(Lain) 2013.02.10 [01:41]

> 「いやっ!
>  こっちのにする!」

「そうか?
 さすがに払いはいいんだがなあ、そうかこっちにしてくれるか」

 にやにやと笑っているのは、きっとミルと監察室の縁を――けっしてミルにとって愉快なものではない縁を――知っているからだろう。

> 「聞くも何も俺はなんだってやるぜ! 任せときな!!!」

「いいねえ、そうやって勢いがあるのは実にいいねえ。
 若手ってな、そうじゃねえとなあ」

 ヴェンの台詞に、ジョージは相好を崩した。
 まあ安請け合いはろくなことにならねえから気をつけな、と付け加えることも忘れない。

>「あー。了解おやっさん。手が要るんっしょ? ならやれることはやらせてもらうよ」

「ああ、頼むぜ。
 依頼人が結構な上客でよ、あんまり仲介を断りたくねえんだ。
 店にしても冒険者にしても、金払いのいい依頼人ってのは財産だろ?」

 アイリスの返答を、ジョージは現実的なものと受け止めたようだ。

 オラン王国の北部に領地を構える貴族が依頼人だ、とジョージは言った。

「うちでももう何度か仲介しててな」

 そのすべてが妖魔絡みの仕事だったという。

 山間部のことであるゆえ、オランやその近郊の平野部よりも妖魔が潜む場所に事欠かない、という事情もあろう。
 また、近いというほどではないにせよ、北には妖魔の森も広がっている。
 その北にはプリシスとロドーリル。戦の絶えないふたつの国がある。

「近頃なにかと物騒なんだよ、あの辺はな」

 ――ま、だからおれやお前さんたちの食い扶持も頂けるってわけでね。

 半ば冗談半ば本気の表情でそう言い、ジョージは話を締め括った。

※ ※ ※

> 「わたくしわ、バーラーと申します。」

> 「マーファ神殿で読師を勤めているエリーズ・モーティマーです。
>  よろしくお願いします。」

> 「ええっと、申し遅れました。私はアイリス・リトルトン。野外活動は慣れていますのでそれであればお力になれるかと」

> 「マイリー神官のセクトールです。」

 名乗り返した冒険者たちに、子爵はいちいち頷いて傾聴の姿勢を見せる。
 そのように丁寧に接することにいかにも慣れた風で、これはおそらくそういう性格なのだろうと思われた。

> 「セレンソン様、お体大丈夫ですか?」

 歩み寄り、背中をさすろうと手を伸ばしたバーラーに使用人が表情を変えて一歩踏み出す。
 フリクセルは手を挙げてそれを制した。

「いや、結構――大事ありません。
 お心遣いのみ、有難く頂戴しましょう」

 バーラーの介添えも、柔和な笑顔ながらきっぱりと謝絶する。

 半身を捻って使用人を振り返り、諭すような口調で続けた。

「こちらのご婦人に害意も悪意もないことは解るでしょう。
 そう気色ばむものではありません」

 一歩下がった使用人が頭を下げ、申し訳ありません、と詫びた。
 フリクセルとバーラーの双方に、であろう。

※ ※ ※

「堅苦しい形式などは取り払いたいところでもありますが――」

 使用人が出て行ったあと、フリクセルは冒険者たちに語りかけた。

「彼らには彼らの役目と立場があります。
 主人たるわたしが彼らをないがしろにすることはできません」

 フリクセル個人として気にするものではなくとも、子爵としての立場が許さないこともある、ということであるらしい。

※ ※ ※

 話が一段落したところで、めいめいに飲み物が配られた。

> 「その話、乗った!!やらせて貰うぜ!」
> 「俺はヴェン。 報酬、よろしく頼むぜ フリクセルの旦那!」

> 「少しでもお役に立てるよう、がんばりますわ」

> 「はい、あたしも受けさせて頂こうと思います」

> 「ウチらでよければ」

「ありがとうございます」

 フリクセルはふたたび笑みを浮かべ、冒険者たちに礼を述べた。

※ ※ ※

 次々と質問を投げかける冒険者たちを、フリクセルは疎んじる様子もない。
 質問のひとつひとつに頷きながら、丁寧に答えてゆく。

「期日は――そうですね、ひとまず現地に着いてから1週間、としましょう。
 その間探して見つからない、となればその付近には巣がないとしてよいでしょうから」

「目撃された場所や巣となりうる場所、伏撃に適した場所――そういった細かな場所までを示すには、この地図では少々大きすぎますね。
 しかしおおよそ――」

 言いながら、シリル、と名の記された村の北を指でなぞる。

「この付近で、例年よりも特に多い、との報を得ております。
 場所としては街道の北側、エストン山脈の主稜に近い側、とお考えください。
 より詳しくは、現地に近い街でお聞きになるのがよいでしょう。
 ここ、フラナリー街道の南端、ローナムに騎士がおります」

 彼ならばよほど詳しくお話できましょうから、とフリクセルは続けた。

「案内役、と申されますと――たとえば、村人にその近辺の案内を、といった意味合いでしょうか。
 であれば、そのご要望にはお応えいたしかねます。
 村に住むものたちの安全を守ることが目的の依頼でありますゆえ。
 しかし、無論、現地でより詳しい情報を、直接妖魔を見た者から得ることはできましょう。
 宿の手配、糧食の手配なども含め、あなた方に協力するよう、書状を用意いたしました」

「妖魔どもの数や質について、ですが――」

 少し考える様子を見せ、ふ、と息をついて続ける。

「近年、妖魔どもはその勢いを増してきております。
 一昨年にはシャーマンとロードにそれぞれ率いられた群れが。後者にはオーガーが随行しておりました。
 昨年にも、シャーマンに率いられた群れが、出ております。
 数は――一昨年のものが10匹ほどと20弱、昨年のものがやはり10ほど。
 他にも、散発的な目撃例はあちらで2匹こちらで3匹、といった具合で、小競り合いなどは後を絶ちません。
 規模の大きい群れについては、いずれも村や民人に害を為す以前に、あなた方のような冒険者の助力によって排除されておりますが」

「例年の――昨年、一昨年のそれも含めてですが、妖魔どもの目的は、概ね略奪であろうと推察されております。
 もっとも、大規模な群れもありましたゆえ、そういった群れによる略奪の結果は村そのものの壊滅、といったことになりかねません」

「特に好むものや特別な場所、というよりは、つまり、人があまり入らず、騎士団などの大規模な戦力が展開しがたい場所と、人の住む場所が接近している、という事情によるもの、と判断されております」

「フラナリー街道沿いの戦力について、ですが、ローナムにはわが騎士団の一隊が常駐しており、またフラナリー街道の北端はベルトーニ辺境伯領にほど近い場所にあります。
 両端はそのように押さえてあるのですが、街道そのものの上に常在するのは、騎士団の巡検隊と村々の自警団程度でしかありません。
 街道に騎士団の戦力を張り付けておけるほどの余裕はない、というのが実情です」

「手に負えぬ妖魔の群れに行き当たった場合の判断はお任せいたします。
 ここであれこれと私が言うよりも、実地にそれを見るあなた方の判断を、私は信頼します。
 ただ、その場合は、群れが向かうと思われる村に必ずその旨の報を入れ、村人の避難を促していただけますよう」

 淡々とそこまでを話し、言葉を切って全員を見回す。

「事情についてはおおむねお解りいただけましたか。
 そのような状況ですので、何かと準備もありましょうが、明日には発って頂かねばなりません」

 無論、ほかにご質問やご要望があればこの場で承りますが、と付け加えた。

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■GMから

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 おそくなりました!
 レスレス。

>みなさま

 拾い落としがないかどうか、各自ご確認くださいませ。
 なにかあればご指摘いただけると助かります!

 次回は12日頃に進行の予定です。
 特になにもなければ次の街まで時間を飛ばします。

 より詳しい情報もそこで手に入るよ、とフリクセルは申しております。

 買い物等があれば、いまのうちにしておいてくださいませ。
 武器や魔晶石などはオランで買い揃えておくのがよいと思われます。

 無論、質問やロールプレイなども存分にどうぞ!


>ターナーさん

 騎士団が妖魔との戦いを嫌った、というわけではなく、得手としない場所で戦うことを避けた、というニュアンスです。
 戦力的に限りがあるので、無駄に損耗させたくない、という部分もあると思われますが。


>ハインツさん

 魔神が出たのは人為的な理由によるもので、かつ場所は蛇の街道の南の側道、プレヴァール街道沿いでした。
 なので、少なくとも現時点では、以前の事件と繋がりがありそうには思えません、と申し上げておきますねー。


>コレステロール満載さん

 背中さすさすは謝絶されました

 使用人が怒ったのは、断りも入れずに、身分の高い相手の身体にいきなり触れに行くのが無礼だから、という理由です。
 その後のフォローでお解りのとおり、フリクセルはあまりそういったことを気にしません。

 ただ、使用人は身分の差があることを前提にしており、それが世間における貴族との付き合い方の標準で、その前提に従えば使用人のとった行動は正しい、ということです。

 正しいことをしているのでフリクセルは面と向かって使用人を叱らず、やんわりと諭すだけに留めております。
 また、バーラーの行動を受け入れてしまうと使用人の立つ瀬がなくなるので、バーラーにも「お気遣いのみ」と言っている、というあたりですね!

 なお、今回の例に限らず、相手方の行動が自キャラの行動に関わる場合、描写できるのはあくまでも自キャラの意思のみで行えるところまで、という点にはご注意ください。

 今回の場合であれば、「背中をさする」は×(さする、という行為を相手が受け入れるか否かがわからないため)、「背中をさすろうと近づく」なら○(止められる場合でも近づいて → 止められた、という流れになる=近づくこと自体は相手方の意思と関係がないため)です。
 同様に、「握手する」は×(握手を拒まれる可能性があるため)、「握手を求めて手を差し伸べる」なら○(拒絶されても手を差し伸べること自体は相手の意思に関わりなく行えるため)です。

 細かいところではありますが、サイトのルールに関係しますので注意を喚起しておきますね。