召喚

GM(Lain) 2012.08.02 [01:14]

 冒険者たちは走り出した。
 ともかく急ぎ神殿跡へ向かわねばならない――時間の猶予を与えてはならない、という判断だ。

 ライナスも息を切らしながら冒険者に追随する。

 カミルとコンラートは戸惑ったように一行を見送り、地母神に低く祈りを捧げた――祈るものは、冒険者たちの無事である。

※ ※ ※

> 「迅てぇつ」

 ミルの声に、使い魔は鳴いて答えた。
 器用に、俊敏に、屋根から庇へ、庇から木の枝へ、そして地面へと飛び降りる。

>  行けぇ!」

 すぐにミルに追いついた迅鉄が、弾かれたように駆け出した。
 薄暗くなりはじめた湖岸、その水辺を駆け、すぐに薄闇にまぎれて見えなくなる。

 人間や馬にとっては難のある足許も、小柄で俊敏な猫には何ほどのこともない。
 足の沈み込みそうな湿地帯であっても、小さな流木や石を踏み台にして難なく通り抜けてゆく。

 ほどなく、迅鉄は神殿跡にたどり着いた。

 建物はそのほとんどが倒壊し、瓦礫の山と変じている。
 ドームの半壊した伽藍が、不自然に欠けた月に照らされていた。

 やや歩調を落とし、内部を覗き込む。

 入口付近に馬が倒れている――いったいどのような力で何をしたのか、遺骸はひどく損壊していた。

 崩れかけた壁を通り抜け、内部へ入る。

 柱廊と、その内側、祭殿。
 広い空間のその天井を、かつては丸いドームが覆っていたのだろう。

 今そのドームは半ば崩れ落ち、壁も半分ほどが崩れている。
 石造りの柱が落とす影の中、祭殿に設えられた祭壇の前に、赤黒いなにかで魔法陣が描かれている。
 むせ返るような血臭――あれは塗料などではなく、おそらくは血であろう。

 魔法陣の脇には石の従者が控えている――見えただけでその数はみっつ。
 魔法陣の中央には大判の魔術書が置かれ、その傍らにローブ姿の人物が立っている。

 彼は崩れた壁の向こうの月を見やり、目を細めて迅鉄が今来た方角を見つめた。

 気付かれたか否か――確認するような余裕はもとより無い。
 柱の陰へ、そして崩れた壁の陰へ、伽藍の外へ。
 迅鉄は来た道を駆け戻った。

※ ※ ※

 突入する直前、崩れかけた壁の手前で冒険者たちは立ち止まった。

 速やかに、かつ安全に制圧するのであれば事前の準備は不可欠だ――たとえば魔法への抵抗力を底上げし、たとえば必要に応じて身体能力を強化する、という具合に。

 石の従者どもはどのような命令を受けているのか、少なくともこの場所へ積極的に襲ってくるようなことはない。

 低い詠唱の声を感付かれたのか、それとも気配を察知されたのか、それとも使い魔の目による知覚であるのか。
 魔法陣の中央に立つグラーニンが、まさに冒険者の身を潜める方へ視線を送る。

「随分と――」

 声は平静を通り越して平板ですらある。

「随分と、早かったじゃないか。
 まだ始まってすらいないというのに」

 ゆらり、とグラーニンの足下の影が揺れた。
 陽炎のように。炎のように。

 失われつつある月光の影――揺れるはずのない影が。

「わたしが為したかったことは、」

「「このような召喚ではないのだが」」

 グラーニンの声に、低く、深く、軋るような響きが重なる。

「「だが――是非もないようだ」」

 墨色の筈の影が、燃えるような赤色へと変化する。

 一瞬ののち、影が足下から――魔法陣から立ち上がり、グラーニンの身体に纏わりついた。

 炎の色の肌。
 ガーゴイルに似た姿。

 そこに立つのは既に人ではない。
 一体の、魔神であった。

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■GMから

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 現場急行、把握いたしました!


>みなさま

■ミッションの進行度など
 今のところPCに目立ったミスはない、というよりむしろ順調にミッションをこなしております。
 バランスとしてはミスがない限りそう高い難易度ではないというものですので、その点についてはあまりご心配いただかずともよろしいかと!

■事前準備
 まずは怪物判定をどうぞ!
 目標値13、わかんない場合はライナスが教えてくれます。

 事前準備は好きなように時間をかけていただいて構いません。

 なお、現状、敵方の前衛はストサバさん×3です。
 最低でも敵前衛と同じ数の前衛を配置しない限り、敵の後衛への突破はできません

 また、数が足りない場合、ストサバさんはPC側後衛へ突っ込んできます


>いあさん&ターナーさん

 『月蝕でなければ出てこないモノ』というのは基本的に存在しません。
 ライナスが以前説明したとおり、大量の魔力を注ぎ込み、しかるべく手続きを踏めば、原理上どのようなモノでも召喚は可能です。

 したがって、何が出てくるかは、正確には出てくるまで・見てみるまでわかりません。
 ・・・・・・見えてますが。

 ただ、「Lv3程度の魔術師が・一人で・短時間で」召喚の魔術儀式を行うのであれば相応に場を整えることが重要で、その「場」として星辰の配置や特殊な天象という条件を狙っていたのではないか、というのがここまでの情報で推測されるところです。
 そして、場をどのように整えたところで時間や人数、技量の制約に変化はないでしょうから、現状で駆けつけることができればそうとんでもないモノは出てこないだろう、ということは推測可能でありましょう。

 まとめると、特殊な状況下であるので普段より魔神の召喚がしやすくなっているであろうことはほぼ確実ですが、だからといって即大惨事確定というわけではないんじゃないかな、というところです。


>いあさん

> 装備は、片手にスモールシールド+1
> 片手は......あれ、指輪発動体があれば剣持ってても術使えましたっけ

 古代語魔法は両手が自由になっている必要があり、持てるものは指の動きを阻害しないものと発動体に限られます。
 したがって、盾は不可・指輪の発動体であれば指輪を嵌めているのと同じ手に剣を持つことは可、とジャッジいたします。


>悪根さん

> あたりの暗さはまだ照明無しで見通せますでしょうか。
> その場合、ランタンの遮光シャッターはまだ閉めておきます。

 はい、現状では特にペナルティはかからないものとします。
 神殿跡へ急行するのであれば、神殿跡に着いた段階でもペナルティはないものとしましょう。

 半月程度の明るさでも結構なものですし、暗闇に目も慣れるでしょうからね!