月蝕

GM(Lain) 2012.07.30 [01:55]

 その、ほんのわずか前。

 太陽はすでにエストンの山陰に隠れていた。
 地平線まで没した頃合であろう――東の空は急激に藍色を深くしてゆく。

 屋外に残り、待つ面々の視線の先で、ゆっくりと月が姿を現した。

 だが。

 ごくわずかに。
 注意せねば解らないほどではあるが、その一部が欠けている。

 満月は今日ではなかったか――冒険者たちはそう思うかもしれない。

 しかしミルは知っている。

 たしかに今日、今夜が満月であることを。
 そしてなにゆえに満月が欠けているのかを。

 ――月蝕。

 なにが己の心に引っ掛かったままになっていたのか、ミルはここで気付くことだろう。

 グラーニンが狙いを定めていたのは、月に一度必ず巡るありふれた満月ではなかった。
 満月でありながら月が隠される――満月の夜にしか起こりえぬ、特別な事象。

 月蝕を、彼は待っていたのだ。

 月はゆっくりと、だが確実に、暗い影のなかへ呑み込まれてゆく。

「月が――!」

 コンラートがかすれた声を咽喉から押し出した。

 その頃には、修道院の中からもいくつかの声が上がっていることだろう。

 月が隠されている、月蝕だ、と。

 その隠されるさまを見れば、ミルには、おそらくこれが皆既月蝕となるであろうと見当がつくことだろう。

 もし天象が魔術儀式に何がしかの影響を及ぼすのであれば――これほど大きな影響を与えそうな天象もそうありはすまい。

※ ※ ※

「月が、隠されております――月蝕です!」

 部屋の戸を乱暴にノックして入ってきた若い修道士の言葉を聞き、ライナスは顔色を変えた。

「まさかこれが――!」

 これが彼の、グラーニンの予測するところであるとするならば。

「――院長!」

 これまでの旅で聞いたことのない、切迫した声だ。

「これを予期してよからぬことを為そうとしていた、とお考えですか」

 穏やかな顔を崩さぬまま、だが院長の声にもまた危機感が滲み出ている。

 ライナスは黙って頷いた。

「――お通りなさい。
 負傷者があれば、当院でできうる限りの手当をいたしましょう」

 一礼し、ライナスは開いたままだった扉から走り出た。

※ ※ ※

 ふたりとカミルが戻るまで、四半刻をやや超過する程度であったろうか。

 月が欠け始めてからほどなく、エリーズとライナスは一行のもとへ戻った。

 裁可は得た。
 グラーニンの用意した舞台が整いつつある。
 急ぎ神殿跡へ向かわねばならない。
 だが、どのようにして――?

-------------------------------------------------------
■GMから

 この記事への返信は「400_月蝕」カテゴリにチェックを入れて投稿してください。

 続き、進行でーす。

 はい、月蝕でございます。
 ただの満月じゃありませんでしたー!

>みなさま
 移動の方法について選択してください。

 ごく大雑把に、

 ・隠密性を諦めて急ぐ
 ・速度を諦めて隠密性を確保

 の2択です。
 足下が悪い箇所が多いため、馬での移動であっても速度は変わらないものとしましょう。

 次回進行は31日または8月1日の予定でーす!

 ほか、質問などありましたら遠慮なくどうぞ!