決着
GM(Lain) 2012.08.19 [19:42]
斬撃と投矢は分厚い装甲のごとき皮膚に弾き返され、石の従者への攻撃はかわされ、
奇跡は効果を顕すも、その代償に術者を消耗させる。
だが、それでも。
4対2の戦闘はやがて4対1に変わる。
暗黒神の奇跡を用いても。
鉤爪を振るっても。
練達の戦士に並ぶような体術をもってしても。
甲冑のごとき堅牢さを誇る皮膚をそなえても。
打破しえぬ絶対的な戦力の差。
徐々に、徐々に、魔神は追い詰められてゆく。
細かく傷を刻み、刻まれる傷をその都度癒す。
それは持久戦であり、消耗戦であった。
互いを削りあう戦いであれば、戦力と対応手段の多い方が勝つ。
それは戦術の問題ではなく、算術の問題だった。
※ ※ ※
長い闘いの末、魔神は遂に倒れた。
冒険者たちの消耗も浅からぬとはいえ、命に至るような傷を負ったものはない。
勝てるだけの戦力を並べ、順当に勝ってみせた――言ってしまえばそれだけのことだ。
だが、勝てる戦いを順当に勝つ、それが実際のところ簡単でないことは歴史が証明している。
ゆえに、冒険者たちの勝利がその価値を減ずるものでないことは言うまでもない。
道場での試合ではなく、ただ技を比べあう教練でもなく、魔神を相手に命のやり取りをする実戦で、とあれば尚更のことだ。
※ ※ ※
倒れた魔神の身体は溶けるように赤色の影へと戻っていった。
あとに残されたのは、数え切れぬほどの深手を負ったグラーニンである。
彼は己の傷に、次いで冒険者たちに、その次に魔法陣に、最後に欠けつつある月に視線を送った。
そのままの姿勢で彼は目を閉じる。
頼りなげに上下していた胸が、その動きを止めた。
最期にかれは何かを呟いていたようではある。
だが口の端からは言葉のかわりに血が溢れ出し、彼が何事を言っているのか聞き取ることはできなかった。
グラーニンが息絶えたその直後。
わだかまる赤色の影は彼の身体から離れ、魔法陣に吸い込まれて消えた。
※ ※ ※
ライナスは神殿内の惨状(と、言って差し支えないだろう)を見て顔をしかめた。
が、そのことについて何かを言うでもなく、冒険者たちに礼を述べるのみだ。
マークから禁書を受け取り、幾度かページを繰って中身を確かめ、ふたたび丁寧な礼を言った。
「たしかに、この書物です――間違いないでしょう」
頷いて言葉を続ける。
「月蝕に禁書、魔術儀式――なにが彼をここまでさせたのか解りませんが――」
それは追って調べるべきこととして報告しましょう、と彼は言う。
彼と、そして冒険者たちの仕事は禁書の奪還であり、少なくともその目的は十分に果たされた。
「それにしても、」
彼はもう一度、神殿の内部を見渡した。
「修道士の皆さんにはどう説明したものか――」
考えるだけで気が重くなります。
彼はそう言ってため息をついた。
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■GMから
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戦闘とその後のダイジェストをお送りいたしますっ!
以降はカテゴリを移して続きの予定!