禁書と制約
GM(Lain) 2012.07.18 [01:32]
> 「ライナス、召還の儀式ってさ、途中でやめたらどないなるんやろ?」
「呪文の詠唱を途中でやめるようなもの、です」
その時点でどこまで儀式が進んでいるかにもよるとは思いますが、と断りを入れて、基本的には中断された儀式は何も起こさない筈だ、と答える。
儀式が完成に近い状態で中断されたにせよ中途半端な結果が生じるだけで、途中でやめたからといってなにか酷い状況になるものではない。
※ ※ ※
一行は予定通り、グラーニンの跡を追ってプレヴァール街道へ入る。
シュトレクでも、プレヴァールでも、グラーニンは街道を北上したようだ、との情報が入る。
途中で道を逸れていないとすれば――行き先はラサークか、あるいはグラナート、その先の蛇の街道か。
グラーニンと一行の間にある差は縮まっているのか、拡がっているのかも定かではない。
おそらく、多少は縮まっているのだろうが、充分に――グラーニンが何事かを為す前に禁書を押さえられるほどに――縮まっているのかどうかは解りようもない。
※ ※ ※
気は焦っても、実際に先を急ぐというわけにはなかなかいかないものだ。
下手に歩調を上げればこのような旅に慣れないライナスがまず落伍するだろう。
それに、馬を潰してしまっては元も子もない――人数分の馬が常に確保できるとは限らない。
野宿では疲労を回復することもなかなかままならない。
だが、数刻が、どうかすれば半刻や四半刻が、成否を決めるかもしれないということもまた事実。
冒険者たちは疲労の蓄積と時間をどうにか釣り合わせながら旅を続けていた。
プレヴァールを発った翌日の夜。
明日の夕刻にはラサークに着くことになるだろう夜。
日暮れから1刻ほどが経ち、空には円に近い月が浮かんでいる。
明日は満月となる筈だ。
※ ※ ※
> 「マーファの神殿跡は伽藍のドームがあるくらいには立派だったと。
> この場所に建てられた所以とかは伝わってないのでしょうか?」
「ええ、立派なものであったようです――来歴については、お定まりといえばお定まりなものですが」
ちらり、とエリーズの方に視線をやったのは、不敬な物言いであったかと気にしたものだろう。
「高徳の司祭がその場所でマーファに祈りを捧げ、神託を得たことが始まりであったとか」
確かに、そのような開闢の由来は巷に多い。
> 「うーむ。個人的には本命、砦跡。対抗は神殿跡?」
マークが披露した推測を最初から最後までじっと聞き、ライナスは破顔した。
「実に興味深い推測だと思います」
事実がどうであるかは確かめてみなければ解りませんが、と前置きをすることは忘れないが、それでも興味を惹いたことは間違いないようだ。
「仰るとおり決め手に欠ける状況ではありますが、であればこそこういった推論は重要です」
行き詰った状況が、手順を踏んだ、しかし大胆な推論で打破されるということは学問の世界でも少なくありません。
ライナスはそう続け、全員の顔を見回した。
「皆さんの見解も是非、窺いたいところですね」
※ ※ ※
食事と一通りの話が終わった頃、ライナスがため息とともに言葉を吐き出した。
「――やはり皆さんには申し上げておいたほうがよいように思います」
今夜のうちに――グラーニンとまみえる前に。
「私は学院の正魔術師です。
が、魔法を行使することができません――許されておりません」
【制約】の呪文。対象に、特定の行動を禁じる呪文。
「禁忌の知識に触れるがゆえに、です」
危険な知識。明らかにすべきでないもの。
であるから、どうあってもそれらを実践できぬように――
「禁書の解析に必要な最低限の素養を満たさねばならず、しかし解析した知識の実践は確実に阻止したい。
学院が選んだ方法が、正魔術師から志願者を募り、【制約】の呪文で魔法の行使を禁じることでした」
整理第2課の魔術師はみな同じなのだ、とライナスは語る。
「他人の触れ得ぬ知識に触れることと引き換えに、我々はそれらを実践する機会を失いました。
そのことについて後悔はありませんが――」
ただ、こうなってみるともどかしくはあります。
ライナスはそう言って苦笑した。
「ですから、実際に戦闘になってしまえば、私にできることは文字通り一切ありません」
言葉を切り、冒険者たちを見回す。
「皆さんが最優先すべきは、禁書の奪還です――それが、学院からの依頼です。
私に万が一のことがあったときは、」
目を閉じ、さすがに緊張するのだろう、唾をごくりと飲み込んだ。
「そのときは、決して禁書を開かずに――中を読まずに、学院へ持ち帰ってください」
どうかよろしく頼みます。
ライナスはそう言って、深々と頭を下げた。
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■GMから
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次の進行(20日夜あたりを想定しております)で、ラサーク近辺まで時間と位置を進める予定でおります。
質問や判定などがありましたらそれまでにどうぞー。
>みなさま
ライナスはマークの推論に感服した風ですが、これは結論よりも推論とそのやり方そのものに感心している、とご理解ください。
情報を整理して自分なりの観点を付け加え、一定の基準に基づいて結論を導く、という手続に深く納得しております。
逆に言えば、マークの結論についてはライナスはコメントしていない(=肯定も否定もしていない)ということであります。
ぶっちゃけますとNPCの立場でこういうことにはコメントしづらい、というお話ですね!
すみません!
そして後半、ライナスは業務の関係でギアス食らってて魔法は一切使えない、というお話が出てきました。
援護は期待しないでくださいませー。