ミノタウロス亭にて
GM(Lain) 2012.07.05 [22:08]
「それはちょいと腕利きが要るなあ」
ライナスの話した依頼の概要を聞き、ジョージは唸るような声をあげた。
「で、口の堅い奴ね。
いいぜ、見繕おう」
監察の下請けたあ、あんたも苦労するな、とライナスに軽口を叩きながらジョージは店内を見回す。
ちょうど昼を過ぎた時間帯、食堂を兼ねた酒場はほどよい混みようだ。
「確実に荒事だよなあ。だとすると――」
身許の堅いとこで神官戦士をふたり、それに最近よく顔出してる腕のいい野伏なんてどうだ。
「腕前といい依頼人受けといい、悪くねえぞ」
話をするなら奥の部屋を使いな、メシ代はさっき貰った仲介料に込みってことにしてやるよ。
ジョージはそう言うと大雑把に手を拭き、カウンターからホールへと出ていく。
どうやら直々に声をかけて回る気のようだ。
※ ※ ※
賢者の学院絡みで仕事があるぜ、というのがジョージの第一声だった。
「秘密厳守で荒事と来てるが、まあ、払いは確かだ。
請ける気があるなら奥の部屋へ行きな、依頼人が待ってる」
詳しくは依頼人に聞け、ということなのだろう。
奥の小部屋――しばしば密談に使われる――へ出向けば、依頼人と思しき魔術師風の男性が待っていることだろう。
同じ部屋にいる女性魔術師、ミルに見覚えのある者はいるかどうか。
セクトール、エリーズ、マークの3人が揃ったところで、男性が確認するようにミルに頷き、説明を始めた。
「はじめまして。
わたしはライナス・デューイ、賢者の学院の禁書を扱う部署に所属する者です。
皆さん、どうかよろしく」
さっそく本題ですが、と前置きして彼は続ける。
ミルは既にライナスから聞いた話であるかもしれない。
「学院所属の魔術師がひとり、禁書を持ち出しました。
皆さんにお願いしたいのは、その禁書の奪還です。
持ち出した魔術師の名はレオニード・グラーニン。
第3階梯の魔術師で、占星術と儀式魔術を研究する賢者でもありました」
「彼は昨日禁書を持ち出したあと、オラン市の北門から市外へ出たようです。
今日の昼前までに判明したところでは、そのまま蛇の街道を北上したらしい、とのことで――」
言いながら、ごそごそと丸めた羊皮紙を机上へ広げた。
「本街道については、監察室の魔術師とわたしの同僚がすでに足取りを追っています。
皆さんに押さえていただきたいのはこちら――」
広げた地図に記された2本の街道、その東側にある細いほうを指でなぞる。
「側道にあたる、プレヴァール街道です。
蛇の街道の途中、シュトレクという宿場町から東側に分かれ、グラナートで合流しています。
グラナートへの所要日数は本街道・側道とも大差ありません――歩いて10日強、といったところです。
ただ歩いては追いつくにも苦労があろうと思われますので、馬を使えるよう、学院に手配をして貰いました。
馬であればおおよそ1週間、といったところでしょう」
「結果として本街道側でグラーニンと禁書が押さえられた場合、報酬は半額支払う、とのことです」
まあ手間賃と口止め料といったところと思ってください、と、ライナスはあけすけな口調で語る。
「禁書についてですが、区分としてはそう厳重に秘されているものではなく――」
ライナスによれば、禁書と一口に言っても、その秘の程度でいくつかに分けられるとのことだ。
「魔神召喚の魔術書なのですが、内容としてはさほど危険でも目新しくもないものです。
それなりの規模の魔術儀式が必要で、これは単独で執り行えるようなものではありません。
また、魔術書自体が儀式の触媒として必要なのです」
ゆえに、持ち出しは禁じられているものの、研究の用に供するための閲覧そのものは禁じられていなかった、とライナスは説明した。
「グラーニン自身については、たとえば外部の協力者であるとか、手を引いた者がいるというような、そういった状況を示唆するような不審な点はありません――ですから、普通に考えれば、彼単独でなにかを為しうるとは考えられませんが」
たとえば他国へでも出向いて魔術書を売り払うなり、邪な目的を持った誰かに手渡すなり、といった危険性は否定できるものではないのだと彼は言う。
「それに、」
表情を曇らせてライナスは続けた。
「グラーニンは儀式魔術の研究者でもありました。
なにか見込みがあってのことである可能性もなしと断言できるものではありません」
まあ、であればこそ、腕利きを雇って追跡を、という話になるのですが、と話を戻した。
「報酬は4人で5000。
ほか、移動や宿泊に要する経費は学院持ち、という条件です」
ひとまずはこんなところで、と説明に区切りをつけたライナスが、前金の入ったものであろう、小袋を机の上に置いた。
「お引き受けいただけますか?」
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