後日談:フラナリー街道

GM(Lain) 2012.06.22 [23:09]

>  誰だかわかりますか?」

 マークの問いに、村人たちは誰だ誰だとお互いに顔を見合わせた。
 エリクセン様か、それとも冒険者さんにまだお仲間がいるのか。
 みな好き勝手に言い合っている。

> 「それは皆さんの領主であり、我々の依頼人。
>  そう、フリクセル・セレンソン子爵閣下です。

 マークが自ら披露した答えに、村人たちはおお、とどよめいた。
 続く解説におうそうだそうだと頷き、歴戦の冒険者さんは言うことが違うのうとマークを持ち上げたりもする。

> 「そんなわけで。良き領主に恵まれた皆さんの幸運に乾杯!」

「領主様に乾杯!」
「冒険者さんたちに乾杯!」

 ――宴は深更まで、あるいは未明まで続いたようだ。

※ ※ ※

> 「大丈夫じゃ、なさそうだ」

 引き寄せた肩は、ルーイのそれよりも少しだけ低く。
 ほんのわずか強張った身体が、安堵したように弛緩する。

 ジゼルは亜麻色の髪を、その頭を、ルーイの肩にもたせかけた。

 甘えるように。
 自分のすべてを預けるように。

※ ※ ※

> 「改まった話し方はなし、だよ。
>  ね、ジゼル」

 指で唇を塞がれた格好のジゼルは、ルーイの言葉に顔を上げた。

 涙の筋が頬に残り、目を赤くした顔。
 その顔でジゼルは微笑する。

> 「ちょっと、歩こう」

 取られた手をそっと握り返して、ジゼルは頷いた。

 自分のものではない鼓動が、手のひらから伝わる。
 同じように速く、大きな鼓動。

 ジゼルもそれに気付いたのか、繋いだ手に視線を落とした。

 恥ずかしそうな、そして嬉しそうな笑顔を浮かべて指を絡める。

 どこかで、また乾杯の声が響いた。

※ ※ ※

 翌朝、と予定されていた出立は、結局、日が高く上ったあとのこととなった。
 冒険者たちも村人たちも、ついでに言えば従士のふたりも些か酒が過多であったし、睡眠は過少であったから。

 それでもローナムへ戻る一行を、村人たちは来たときにもまして暖かく送り出してくれた。

 状況は来たときとは違う。
 急ぐ旅でもない。
 注意すべき脅威もない。

 5頭の馬がのんびりと山道を下ってゆく。
 往路では目を向ける余裕もなかった景色を眺めることもできるだろう。

 初夏の空の下、ミード湖がぼんやりと霞んで見える。

 依頼が――従士ふたりにとっては任務が――無事終わった、という解放感は、皆の口も心も軽くすることだろう。

 道中も、野営の折も、会話が絶えることはない。

 5日目の昼頃、一行はローナムに到着した。

※ ※ ※

 翌朝。

 久々の街で身体を休めた冒険者たちは、蛇の街道を南に下る。
 クラエスとジゼルが、街の門まで3人を見送ってくれた。

「ミノタウロス亭の皆さんにも、よろしく伝えてください」

 クラエスはそう言って3人とかわるがわる握手する。

「道中、どうかお気をつけて」

 ジゼルが付け加える。
 なにかを堪えるような表情だった。

 ――いいのかおい。

 クラエスが低く呟くように言う。

「あの!」

 その言葉に押されるように、ジゼルがルーイの方へ一歩踏み出した。
 目尻を手で拭う。

「手紙、書きますから!
 お返事ください、待ってますから!」

 声がくっきりと強いのは、震えそうになる声を無理に押し出しているからだろう。

 ――ほんとうは。

 ルーイは一昨日の夜のことを思い出すかもしれない。

 ――街になんか着かなければいいなって、今、思ってます。

 ぽつりと漏らしたその言葉に篭められた心情を、彼女はいま必死に覆い隠そうとしている。

 無理やりな笑顔で。
 強がった声で。

 子爵領を、そこに住む人々を守る従士の彼女にとって、片道半月の距離はあまりに遠い。

 それでも。

「絶対に、」

 ジゼルはルーイの手を両手で包み。
 そっと、しかしはっきりとした意思を込めて引き寄せた。

「絶対ですよ?」

 唇が優しく重なり、すぐに離れた。

 するりと手が解ける。
 ジゼルの手、その細い指の感触が、最後に残った。

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■GMから

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 おわかれのシーンまで。
 我に返るといろいろとしにそうですうぼぁー。

 オランでもう1本投下する予定です。