結末

GM(Lain) 2012.06.17 [03:00]

 呪術師の尋問は結果として、まる一昼夜に及んだ。

 人並みの知恵を持つということは人並みに嘘をつくということでもある。
 そして、嘘をつき通すにはついた嘘を憶えておかねばならない。

 疲労の極に置かれ、絶え間なく苦痛を与えられ、眠ることすら許されない妖魔に、嘘をつき通すことは不可能だった。

 間隔を開け、訊き方を変えて同じ質問を繰り返せば矛盾する返答があることも少なくない。

 そのたびにまた苦痛を与えられる。
 ひたすらに、その繰り返しだった。

 恐怖と苦痛よりも人間への憎悪が勝ったのか、呪術師の心は最後まで折れなかった。

 屈服したのは肉体である――意識をまともに保つことも難しい状態に置かれ、ふと漏らした言葉をきっかけに矛盾を衝かれ、事実への道を開いてしまう、その連鎖。

 本人もそれと気付かぬ間に、呪術師は少しずつ追い詰められていった。

 尋問する側の体力との勝負になれば、呪術師はひとり、冒険者は3人である。
 負ける筈のない勝負だった。

※ ※ ※

 二日目の夜半頃、呪術師は死んだ。
 体力はとうに限界を超えていたのだろう。
 憎悪だけで魂を現世に留めているような有様だった。

 自害を防ぐために牙を引き抜かれ、手足あわせて20の指は過半が失われ、体表はくまなく大小の傷で覆われていた。

 冒険者たちが得た情報は少なくはない。

 呪術師が率いていた集団は橋を落とすために先行した別働隊であること。
 『王』が率い、後方に控える本隊は、さらに倍の数がいること。
 橋が落ちたならば別働隊と合流したのちまずカルナを、そしてディマスを襲う予定であったこと。
 本拠はディマスの西、やや離れた山中にある廃寺院であること。
 自分たちはもともと妖魔の森にいたこと。
 人間と、そして闇妖精の助力を得ていたこと。

 ――せいぜい人間同士で喰い合うがいい。

 呪いじみた言葉を残して彼は意識を失い、その意識がふたたび戻ることはなかった。

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■GMから

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>みなさま

 ひとまず尋問終了まで!
 ここから先はエピローグでーす。

 なお、モンスターの知能に関しては、

 「人間並み」ならだいたい人間と同じように損得勘定や先読み、推測や合理的思考が可能であり、加えて情動もそれなりにある、という解釈を取っております。
 人間が考え付くことならゴブローやゴブシャは考え付く、ということですね。

 つまり、今回のような動きは、上位種に率いられていない群れには不可能ですが、上位種に統率された群れには普通に可能、ということです。


>魔音さん

 尋問のシーンについて、キュアを使うか否かは意図して描写を省きました。
 行使しうるか否かについて疑義があったためです。

 理由については長くなりますが、だいたい以下の通りです。

 神聖魔法の動作原理は「祈りと応答」であるとGMは考えます。

 この祈りは心の底からのものでなければなりません。
 また、PCの考える信仰のあり方と合致していなければなりません。

 つまり、今回のケースにおいてキュアをゴブシャに行使するには、ふたつのハードルがあります。

 ・ゴブシャを癒すことを心の底から祈ることができるか
 ・情報を引き出して殺すためだけに相手を生かすことはバルカの信仰のあり方と合致するか

 いずれもyesであればキュアは使用可能です。

 この件に関してはルール的にどうこうというよりも、バルカ個人の信条と衝突するか否かの問題である、とGMは考えております。
 ので、GMとしては、神聖魔法をこのような場面で使えるとも使えないとも申しません。

 また、既に描写したとおり、使っても使わなくても結果に有意な差はありません。

 バルカの信仰を考える一助、ロールプレイの一助としていただきたく思います。