手の記憶

GM(Lain) 2012.06.15 [02:16]

> 「ただいま」

 ルーイの笑顔を見て、ジゼルも顔を綻ばせた。

 と、その表情が急に変わり。
 なにかを叫んで、手を伸ばす。

 ふっと視界が回転し、そして暗くなる。

 ルーイを受け止めたのは地面ではなく、誰かの腕だった。

 暗転した視界。
 相手の顔は見えない。

 元気付けるように、手を強く握られた。
 その手の感触を、ルーイは思い出したかどうか。

 ルーイの意識と記憶は、そこで途切れている。

※ ※ ※

> 「ただいま」

 そう言ったルーイの様子がおかしい。

 吊橋から戻る最中も、何度もふたりから遅れていた。

 そのたび、ほんのすこしだけ休んで行軍を続けてはいたのだが――。

 一日中歩き通しに歩き、続けざまに魔法を行使し、妖魔どもの遺骸の始末もした。
 もとより体力に恵まれているとはいえないルーイである。

 体力気力の限界に達したのだろう。

「――ルーイさん?」

 笑顔を怪訝そうな表情に変えて、ジゼルが呼びかける。
 次の瞬間、その声が切迫した叫び声に変わった。

「ルーイさんっ!」

 倒れるルーイをどうにか受け止め、腕で支えて地面に座らせる。

「怪我、怪我ですか!?
 それとも――」

 縋るような視線を、バルカとマークを交互に送る。

 落ち着かせるには、少々時間がかかりそうだった。

※ ※ ※

 ひとまず命に別状はない、そう知って落ち着いたあとも、ジゼルは握った手を離さなかった。

「ルーイさん、疲れすぎて倒れちゃったのよ。
 休ませてあげないといけないから、村長さんに部屋をひとつ用意してもらって」

 冒険者たちの帰還を知って駆けつけたクラエスに、ジゼルはそう頼んだ。

 ジゼルに支えられたルーイと、ルーイを支えるジゼルと、しっかりと握られた手を順に見やって、クラエスは頷き、村長の家へ取って返した。

> 「ルーイの介抱はお任せします。代わりの見張りに入りますので。」

 マークの言葉に、ジゼルははいと頷く。

「あ、でも、クラエスがすぐ戻りますから。
 マークさんもバルカさんもすこし休んでください」

 倒れるほどではないにせよ、疲労していることを、ジゼルは心配しているようだった。

※ ※ ※

 呪術師がどうにか喋れる程度になるまで、到着から1刻半を要した。

 ルーイが揺り起こされたのはその直後だ。

 尋問をする予定、と事前に聞かされていたとはいえ、ジゼルはあまりいい顔をしなかった。

 せめてもう少し休ませてあげたほうが、というのがルーイに付き添った彼女の言い分ではあったが、そのまま一晩寝かせるわけにもいかない、というところは承知している。
 結局、ルーイを起こしたのはジゼルだった。

※ ※ ※

「――ルーイさん」

 身体を揺すられる感覚と、囁くような声。

 どこかへ行っていた意識を引き戻したのは、そのふたつだった。

 目を開くと、意外なほど近くにジゼルの顔がある。
 ベッドサイドに置かれた椅子に腰掛けたジゼルが、ルーイの顔を覗き込んでいた。

「あの、」

 言いながら、自分でその距離に驚いたように、ジゼルが上体を起こす。

「――呪術師が起きたと、皆さんが」

 握られていた手がほどけた。
 その片方の手だけが、かすかに温かい。

「起きられますか?」

 ジゼルの表情はあくまでも気遣わしげだ。

「マークさんとバルカさんは、先に納屋に行っている、と」

 起き上がるルーイにどう言葉をかけたものか逡巡し、

「――あまり、無理しないでくださいね」

 出てきたのは、そんな言葉だった。

-------------------------------------------------------
■GMから

 この記事への返信は「400_帰還」カテゴリにチェックを入れて投稿してください。


>みなさま

 ジゼルのせいで長くなったので一旦切ります(ぇー

 続き(というか情報的なメイン部分)は明日or明後日夜の予定ですー。
 一応、週末には解放手続をはじめて週明けには解放、みたいな予定でおります。

 なんか2ヶ月の予定が1ヶ月ちょいで終わってるとかペースパネェ・・・!