吊橋にて

GM(Lain) 2012.05.17 [00:42]

> 「そうそう。
>  自分の身を守れればいいんだ。
>  それが、キミの仕事」

「足手まといになってちゃ、いけませんしね」

 肩の力の抜けた表情で、彼女はそう答えた。

※ ※ ※

> 「エストン山脈は向こう側はプリシスやロドーリルなんですね。
>  ミード経由だと結構な距離なんですが。まだ戦争続いてるんでしたっけ?」

 ええまだ続いてます、とクラエスは頷いた。

「もっと北のほうの領主様は、もっと大変なんじゃないですかね。
 国境のあたりとか、戦支度してるって聞きますし」

 北方、プリシスの戦況が芳しくないことはオランの国内にも噂となって伝わってくる。
 クラエスの話は、それを裏付けるものと言えた。

※ ※ ※

>  クラエスさんもジゼルも。
>  大切なひとがいるんでしょう?」

 まだそういうのはよくわからないんです、とジゼルは答える。

 教練のとき。
 こういった軍務のとき。

 思い浮かべる顔がないではない――たとえば家族、たとえば親しい知人。

 親兄弟は大切に思っているけれど、家族のためかと言われるとなにか違う。

 そのようなことを訥々と語り、もう一度、だからまだよくわかりません、と恥ずかしそうに笑った。

※ ※ ※

 ルーイが話す馬の扱い方を、ジゼルは熱心に聞いた。

> 「でも、その辺は騎士のひとたちとは感覚が違うかもね」

 そんなこと、とぶんぶんと首を振る。

「大事にします――騎兵は馬がいないと、役に立てませんから」

※ ※ ※

> 「魔法に興味あるの?
>  ちょっと面白いのがあるんだ」

 ルーイの言葉に、え、なんですかなんですかとジゼルは興味深げだ。
 市井の者にありがちな魔法への偏見、魔術師への恐怖感はその態度からは読み取れない。

 興味と関心がそれらに勝っていることが大きいのだろうが、同年輩で親しく話をするルーイが相手であるということも理由のひとつではあるだろう。

>  『音よ、大気の振動よ、魔力の導きに従いてその発するを転じよ。【リプレイス・サウンド】』

 聞きなれぬ古代語の詠唱と、複雑な印を結ぶ手、運足、舞うような動き。
 それらを驚きと感心の入り混じった表情で眺め――

> 「音だけ、場所を移動するんだ」

 真後ろから聞こえたその声に、ちいさく悲鳴をあげて飛び退いた。
 音のした方から遠ざかるように。
 ――つまりは前に。

 小柄なジゼルの身体が、ルーイにぶつかった。

「や、ちょ・・・・・・すみませんっ」

 顔を真っ赤にして叫ぶその声も少し離れた場所、先ほどまでジゼルがいたその背後から聞こえる。

 成り行きを眺めていたクラエスが爆笑した。
 余程おかしかったのだろう、腹を抱えて笑うクラエスに、なかば涙目のジゼルが手近な小物を投げつける。

 やめろ痛ぇよ、と言いながらさすがに悪いと思ったのか、クラエスはあっさりとジゼルに詫びた。

 我に返ったジゼルもルーイのところへ戻り、取り乱してごめんなさい、と詫びる。
 俯いた耳が赤い。
 消え入るような声だった。

※ ※ ※

> 「吊り橋かあ。えーと、ここはシルヤ川か。
>  クラエスさん、この川に架けられている橋って、ここだけですか?」

「この近辺ではここだけの筈です。
 もっとずっと上流へ行って川幅が狭くなってるところには丸木橋とかあるって話ですけど」

 猟師や樵が使うもので、普段旅人だの商人だの俺らみたいな兵隊が使えるようなもんじゃないですね。

 言い終えたあとで川面を眺め、これはあんまりいい気分しないなあ、と独語する。

>  ここは私が先に渡りきってしまおうかと思いますが如何でしょう。
>  その後はお二人がルーイを護衛しつつ渡って頂いて。
>  で、最後がバルカ。」

 マークの提案には、じゃあそれでお願いしますと頷く。

 先に渡る者があればその渡り方を見て倣えばよい、そう考える程度には余裕があるようだ。

> 「騎乗者が不安になると、乗馬に伝染するから。
>  馬を信頼して、ささっと渡っちゃいましょう。
>  間違って落ちても、オレが助けます。
>  便利な魔法があるんです」

 魔法、と聞いて、野営のときの一騒動を思い出したのか、ジゼルはなんともいえない表情を浮かべた。

 ルーイの手に持つ杖、自分が握る手綱、ルーイ、荒れる水面、かすかに揺れる橋。
 その順に、二度、視線を巡らせた。

 深呼吸して、ルーイを見つめる。

「じゃあ、渡ります。
 もしものときは、お願いしますね」

 鞍の上で背筋を伸ばし、思い切ったように前へ進み――あっさりと渡りきった。

 さほど長くもない橋の向こうで振り返り、にっこりと笑って握り拳を作る。
 それが彼女の、素の笑顔なのだろう。

※ ※ ※

 橋の手前側にも向こう側にも、敵――妖魔の気配は感じられない。
 馬上から見てそれと解るような足跡などの痕跡もない。

 馬を降り、森の中まで踏み込んで捜索すればまた別の収穫がないとも限らないが、それには少なからぬ時間を要することだろう。

 初夏の太陽は少しずつ傾き、日差しも徐々に柔らかくなってゆく。

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■GMから

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 女子力ェ・・・・・・。

 とりあえず吊橋理論的なアレを。


>みなさま

 吊橋近辺に今のところ敵影はないようです。
 周辺を捜索する/足跡追跡を行う、などは当然可能ですが、実行した場合夕暮れまでにカルナに到着するのは難しくなるでしょう。


>たいまんさん

> ・橋は他にもありますか?

 この近辺にはありません
 離れた場所にはあるようですが、地元民専用という趣のようです。

> ・見張りというか監視する人はいない?

 いません

> ・リプレイスサウンドでジゼルの女子力を試す(ぉ

 い、いかがでしょうか(dkdk


>悪根さん

 順番了解でーす。
 クラエスは先に渡ったマークの動きを見てきっちり渡りきりました!


>魔音さん

 クラエスはひとりでできる子なのでほっといて大丈夫です。
 ジゼルはお察しのとおりルーイ君がうまくやりました(誤解を招く表現