その発端

GM(Lain) 2012.05.10 [00:36]

 春先。
 エストンの山々の雪も徐々に融けはじめる頃。

 王都ではこの時期、雨の日が増える。
 冬に多い、凍えるような雨ではない。

 雪解けの水と合わさってハザード川の水量を増し、耕地を潤す恵みの雨だ。

 オランは今日も雨である。

※ ※ ※

 雨とはいえ、冒険者の店、角なしミノタウロス亭の賑わいは常のそれと変わらない。

 人出はたしかに減るのだが、その分は巣篭りを決め込んだ冒険者が埋めている。
 そもそも困りごとというのは天気に関わらず起きるもので、だからなにかに困った依頼人は雨の中であろうと構わずにこの店へ足を運ぶのだ。

 冒険者たちは雨中の外出から戻って一息ついたところであるのか、
 雨を逆に幸いとして武具の手入れでもしていたところであるのか、
 諸々の用事を諦めて仲間と時間を潰しているところであったか、
 はたまたたまたま食事をしに来たところであったか。

 ジョージは新しい依頼が書かれた羊皮紙を持って思案顔だ。
 店内を見回し、ややあって冒険者たちに声をかける。

「よおお前ら、手が空いてるならこんな依頼はどうだ」

 妖魔の活動状況調査依頼。
 報酬は計1500ガメル。
 路銀支給。

 ジョージが差し出す羊皮紙を見れば、そこに書いてある依頼の内容はまさに駆け出し向きと知れる。

「お前らにゃ少々軽すぎる仕事かもしれんが、今駆け出しが出払ってんだよなあ。
 5人6人で請けるとなりゃあ旨みのねえ仕事だがよ、3人だったら頭割りしてもひとり500だ」

 そう悪い話じゃあないと思うがね、とジョージは語る。

「まあなんだ、その依頼、期限が今日までなんだよ。
 周旋できないとなると、ちょいと格好がつかねえからなあ。
 もし暇なら、ちょっとした手助けと思って、頼むよ」

「――頼めるかい?」

※ ※ ※

 依頼人に指定された場所はオランの街中にある貴族の屋敷。
 一等地、というには少々、市の中心街からは外れている。

 門衛に来意を告げれば、冒険者たちは屋敷の一室に通される。
 部屋の一隅には大きな暖炉、中央にこれも大きな円卓。

 待っているのは屋敷の主人にして依頼人、アンセルム子爵。

 40をいくつも過ぎないというが、痩せた身体からは壮年の男性がもつある種の力強さを感じない。
 色白の細面に白いものの交じる金褐色の髪、柔和そうな藍色の瞳。
 幅の狭い肩から上掛けを羽織り、時折乾いた咳をする。
 身体が弱いのか、病なのか、あるいはその両方であるのかもしれない。

「フリクセル=セレンソンです」

 穏やかな声でそう名乗り、かれは冒険者たちに椅子を勧めた。

 一行のなかにマークの姿を認め、かすかに笑って会釈する。

「先日はありがとうございました。エリクセンもあなた方が同行してくれたことは幸甚であった、と、そのように」

 丁寧な口調でそう言い、改めて全員の顔を見回した。

「どうぞ、かけてください」

 控えていた使用人に頷くと、使用人は円卓に地図を広げる。

snake_karna.png 椅子に腰を落ち着けてから、かれは思い出したように問うた。

「この雨では、あの店からも少々時間がかかったことでしょう。
 喉が渇いてはおられませんか。飲み物でも持ってこさせましょう」

 冒険者たちが注文を述べれば、使用人がそれを聞くことだろう。
 全員の注文を聞き、一礼して、使用人は部屋を出ていった。

※ ※ ※

「さて、本題ですが」

 フリクセルは切り出す。

「宿のご主人から、おおよそのところは聞いておられますね?」

 言いながら、彼はフラナリー街道、と記された街道を指差す。

「この街道――蛇の街道の側道ですが、このフラナリー街道沿いで、妖魔が常よりも活発に動いているようなのです。
 例年春先からこの時期にかけて、数件は妖魔を見たとの報告が上がるのですが、今年は普段の年に倍する数が」

「今のところ村や人が襲われたという類の、直接的な被害の報告はありません。
 ただ、目撃の数が多い。ゆえに間接的な被害が出ています。
 樵も狩人も山へおいそれと入れない。
 牧畜を行うにも放牧ができない。
 旅人や商人も街道をなかなか通れなくなる。
 放置すれば直接的な被害もいずれは出ましょうし、たとえそういった害がないにせよ、妖魔が出るというだけで周辺の村々は怯えて暮さねばなりません」

「無論、本来、こういった害に対処し、民人の安寧を守るは騎士の役割です。
 ですが――」

 山狩りをするにせよ街道を巡察するにせよ、いずこに力点を置くべきかがはっきりしないのだ、と子爵は語る。

「妖魔どもを狩り出すならば巣を明らかにせねばなりません。
 守りに徹し街道を巡察するにせよ、フラナリー街道は長い。
 端から端までを絶えず守り切れるほどの兵力は、私の一存では動かしえないのです」

「ゆえにあなたがたに依頼したいことは、どこを重点として騎士たちを動かせばよいのか、そのために必要な情報を集めてきていただくということです。
 必ずしも行き会った妖魔を殲滅することを求めるものではありません――無論、あなたがたの腕前に頼らぬという話ではありません。
 求めるものは情報ですが、その過程で妖魔を討っていただけたならば、その質と数に応じて報酬を引き上げましょう」

 いかがでしょうか、と子爵は問うた。

「お引き受けいただけましょうか?」

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■GMから

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 マジックアイテムは魔晶石のみ購入を認めます。
 3点までの大きさのものを、ひとりあたり1d3個まで購入可能、としましょう。

 買ったものはキャラクターシートに反映させ、GMにその旨伝えてください。
 オランを離れたあとは、基本的に武器などは手に入らなくなるとお考えくださいね。